イラン 制裁下の“抵抗経済”で発展 急速に進む物価高が課題 佐藤佳奈
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中東では人口が多いイラン。国内市場も大きく、製造業も拡大している。経済制裁下にあって輸入に頼れないという状況も、さまざまな製品の国産化を促している。
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イランの公用語であるペルシャ語で「Gol(ゴル)」は花の意味だが、同時に薔薇(ばら)を指す言葉でもある。首都テヘランにある世界遺産「Golestan(ゴレスターン)」宮殿は、薔薇の園ともいわれ、薔薇の季節には美しく咲き誇り、装飾のタイルには所狭しと薔薇の絵が描かれている。日本では花見といえば桜を思い浮かべるが、イランでは「花」といえば薔薇を思い浮かべる。イランは「薔薇水」(ローズウオーター、化粧品や医薬品などに使用)の世界一の産地でもある。
イランは薔薇にとどまらず、農作物・フルーツの生産大国でもある。例えば、ピスタチオ、サフラン、ザクロの生産量は世界最大規模であり、その他、サクランボ、アーモンド、スイカなどは世界5位以内の生産量を持つ。他にも世界規模の生産量を持つ農作物・フルーツは多い。
イランの農業は国内総生産(GDP)の10%を占め、農業従事者は人口の約18%に達しており、農業はイラン経済の重要な柱となっている。イランは長年にわたる経済制裁を受けて、経済は必ずしも好調とはいえないが、堅実な経済基盤を築いているともいえる。製造業もその一例だ。
自動車生産は100万台超え
イランは「抵抗経済」という政策を敷き、輸入に頼れないのであれば、輸入品から自立するとの考えのもと、さまざまな製品の国産化を進めている。イランの人口は、中東地域ではずば抜けて多い8792万人を誇り、国内市場規模は大きい。国民生活に直結する白物家電は特に国産化が進んでおり、イラン家電産業協会によると、白物家電の75%は自国製品で供給されているという。
また、イランは自動車産業も拡大しており、経済制裁強化や解除など、外的要因に影響を受けて好不調の波はあるが、2022年には自動車の年間生産台数が4年ぶりに100万台を超えた(図1)。しかし、新しい技術は制裁で入ってこないため、古い型の自動車を改良しながら生産しているのが現状だ。
そのため、イランで最も多く普及していた自動車の一つであるSAIPA社のある自動車は、「死の車」の異名を持つなど安全性が問題となり、22年に生産禁止になっている。とはいえ、イラン製品の全てがそういうわけではなく、前述の薔薇水入りのフェースクリームなどは品質もよく保湿力などは抜群だ。
長期間続く物価高
市民生活という観点では、長年続いている物価上昇は大きな問題で、世界的な物価高や政府の補助金削減、自国通貨イラン・リヤルの暴落などにより、23年1月21日から2月19日にあたるイラン暦1401年バフマン月の前年比インフレ率は53・4%を記録している。不動産価格は、首都テヘランのマンションの1平方メートル当たりの価格が、22年3月に2億8340万リヤル(約1079ドル、当時の為替レート)だったのが、22年12月には9億2540万リヤル(約2382ドル、同)に高騰している。
価格高騰で家賃を払え…
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