“脱石油”掲げ8年目 サウジアラビアが未来都市に70兆円投資 庄司太郎
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サウジアラビアが四つの超巨大都市計画をスタートさせた。人口900万人の“壁面”都市「THE LINE」も建設する。
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現在、サウジアラビアでは石油収入に依存しない経済を構築するため、世界的にも未曽有の未来都市計画「NEOM(新しい未来)」が進行している。
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NEOMの最高責任者は、実質的権力者であるムハンマド皇太子で、計画は2017年に発表されている。官民の投資総額は5000億ドル(約70兆円)で、サウジ西部のアカバ湾と紅海に面した約2万6500平方キロメートル(ベルギーとほぼ同じ面積)の開発区域内に、全てを再生可能エネルギーで賄うハイテク工業都市、人工観光都市、人工降雪によるスキー場などを備えた山岳保養都市、幅約200メートル、長さ170キロメートルという直線状の自動運転都市の四つの未来都市を建設するというものだ(表)。
特に、22年7月にムハンマド皇太子自身が詳細を発表した、直線状の人工都市「THE LINE」は、驚くべき巨大都市だ。この都市は、約200メートルの幅の両側に高さ500メートルもの超高層ビルが壁のように立ち、そのビルが万里の長城のように直線で170キロメートルも続くというものだ。ビルの中には自動運転の高速移動体が走るほか、屋内農場もあり、食料や水、エネルギーなど生活に必要なものを賄えるという。この170キロメートルの直線状都市の人口は約900万人とされている。
欧米のマスコミの中には、「NEOM」計画はほとんど進捗(しんちょく)していないとの報道もあるが、22年10月に衛星写真によって「THE LINE」の工事が行われている様子が確認されている。NEOM当局は進捗率20%としている。人工降雪による山岳都市は、ここで29年のアジア冬季五輪大会を開催することが決まっている。サウジアラビアの23年の国家予算黒字化はほぼ達成可能であり、コロナ禍による石油収入激減から回復して、資金面で大幅な余裕が生じてきたことから、「NEOM」計画の加速化は間違いないと見られている。
ただし、そのためには原油価格の高値安定が求められ、脱石油の未来都市計画の実現は、石油需要とその価格に影響される。この点はムハンマド皇太子もよく理解しており、サウジアラビアの外交政策もそこが焦点となるだろう。
14年から原油価格の下落が続いていたため、サウジアラビアは15年に約980億ドルの財政赤字を出した。これに20年のコロナ禍が影響し、石油収入は大幅に減少したものの、21年から原油価格は回復し始め、22年初には90ドル前後まで上昇、ウクライナ戦争による原油高騰もあり、石油収入の増加によって、サウジアラビアの財政は改善している。
サウジアラビアが石油依存脱却を加速させた要因の一つは、15年4月に現ムハンマド皇太子が副皇太子に任命され、同国の実質的な権力者になったことだろう。彼は16年4月に同国の脱石油を中心とする長期ビジョン「サウジアラビア・ビジョン2030」を策定した。このビジョンは、非石油収入の増加を目標とし、その中で巨大都…
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週刊エコノミスト
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