ウクライナ和平に存在感を示すトルコ 慢性的なインフレに苦慮 西浜徹
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ウクライナ和平交渉で存在感を示すトルコだが、政策運営や構造問題による慢性的なインフレに悩む。地震の被害も甚大だ。
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ここ数年の世界経済を揺さぶった新型コロナウイルス禍では、その影響が最も色濃く表れた2020年は世界経済がマイナス成長となるなど、多くの国が余波を受けた。こうした状況ながら、トルコは20年の経済成長率も1.9%のプラス成長を維持するなど、コロナ禍が同国経済に与えた影響は軽微だったようにみえる。
しかし、これは18年に同国の通貨リラ相場の暴落をきっかけにした国際金融市場の動揺、いわゆる「トルコショック」の余波を受けて19年の経済成長率がプラス0.8%と低成長にとどまったことが影響している。事実、コロナ禍に際してはトルコ国内でも多数の感染が確認されるとともに、感染対策に伴い景気に深刻な悪影響が出た。とはいえ、21年の経済成長率はプラス11.4%と世界金融危機後の11年(プラス11.2%)を上回るなど底入れしたほか、22年もプラス5.6%と堅調な伸びが続くなど、足元ではコロナ禍の影響を完全に克服していると捉えられる(図1)。
人口増が内需押し上げ
なお、トルコは国内総生産(GDP)に占める家計消費の割合が6割弱を占める上、公共投資や企業の設備投資など固定資本投資を合わせると9割弱に達するなど、内需依存度が高い経済構造を有する。さらに、同国は約8500万人の人口を擁するとともに、人口に占める若年層の割合が高いなど中長期的にも安定した人口増加が見込まれるなど、家計消費をはじめとする内需を押し上げる原動力となることが期待される。
コロナ禍からの景気回復局面では、商品高による食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレ加速にもかかわらず、「金利の敵」を自任するエルドアン大統領の圧力により同国の中央銀行は利下げに動くなど、経済学の定石では考えられない政策運営に加え、最低賃金の大幅引き上げや補助金、低金利ローンなどの景気対策も重なり、家計消費が押し上げられる動きがみられた。
その一方、トルコはGDPに占める輸出比率も4割弱と比較的高く、財輸出の約4割、外国人観光客の4割強を欧州連合(EU)が占めており、EU経済との連動性が高い特徴を有する。よって、コロナ禍からの景気回復局面においては、リラ安による価格競争力の向上や欧州景気の回復の動きも追い風にEU向けを中心とする輸出が押し上げられるとともに、EUをはじめとする欧州諸国からの観光客の底入れの動きも外需を押し上げてきた。
なお、トルコは地理的な影響もあり、伝統的にロシア、ウクライナ両国と関係が深い上、ロシアによるウクライナ侵攻以前においては外国人観光客に占める両国の割合は2割弱を占めるなど、とりわけ観光面での結び付きが強い。さらに侵攻以降は、ウクライナからの観光客は大きく減少する一方、ロシアからは富裕層などを中心とする逃避の動きが活発化する動きがみられる。また、ロシア人富裕層による逃避資金を追い風に、トルコ国内においては住宅投資が活発化する動きもみられるなど、コロナ禍…
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週刊エコノミスト
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