欧州経済を下押す“三つの重し”も24年以降は弱まる流れ 山本武人/江頭勇太
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2023年の欧州経済はわずかなマイナス成長が続くが、24年には回復軌道に。エネルギーの「グリーン化」が焦点だ。
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今回の欧州におけるインフレは、嵐のような勢いがあった。筆者の住む英国では昨年、いつもと同じ店で同じサンドイッチを購入しようとしたところ、顔なじみの店員から、前日より1割高い値段を、いつもと変わらぬ口調で告げられた。幅広い財・サービスの値段が、当たり前のように値上がりしており、庶民にとってインフレの痛みは大きく、賃上げを求めるストライキが断続的に行われている。特にコロナ危機以降、公共サービスの賃上げが進んでおらず、公共交通や医療、教育現場などで、公務員のストライキが広がりを見せ、社会的混乱につながっている。
そうした英国も現在、足元の景気・物価は小康状態にある。背景には天然ガス価格の低下に伴うインフレの鈍化と、賃上げ交渉の進展が挙げられよう。筆者も最近は驚くほどの値上げに出くわす機会が減ったように感じている。ストライキは続いているものの、今年2月半ばごろから、労使交渉で歩み寄りを示唆する内容の記事も多く見かけるようになり、ストライキが決行直前に中止・延期されるケースも目立ってきた。
ただし、実質賃金(名目賃金からインフレ影響を差し引いた賃金)は、マイナス圏での推移が続いており、人々はインフレの痛みに何とか慣れつつあるというのが実態だ(図1)。消費マインドは、かなり悪い水準から小幅に回復しているに過ぎず、低所得者層では光熱費や食費の高さから、今年は貯金を失う世帯が増えると予想されている。まだインフレの痛みは去っておらず、消費の本格回復には時間がかかりそうだ。
23年は浅いマイナス成長
欧州経済は回復できるのか。以下、欧州(ユーロ圏と英国)の今後の短・中期の経済見通しと、インフレを加速させる主因となった、欧州エネルギー供給体制の脆弱(ぜいじゃく)性に対する展望をまとめたい。
2023年のユーロ圏と英国の実質国内総生産(GDP)成長率は、それぞれ前年比マイナス0.1%、マイナス0.7%と、マイナス成長に陥る見込みだ。両経済を下押しする要因は三つある。第一は、高いインフレ率を背景とした実質賃金の低迷だ。ユーロ圏と英国では、22年10月にピークとなったインフレ率は、ともに前年比プラス11%まで加速した。物価は足元で鈍化しているとはいえ、依然として高い伸びが続いており、ユーロ圏の23年通年の消費者物価上昇率は、同プラス5.4%となる見込みだ。賃金も物価高騰へのキャッチアップや労働需給の逼迫(ひっぱく)を背景に、今年は伸び率が高まるとみられるが、それでも前年比プラス4%程度と、インフレには追いつきそうもない。実質賃金は同マイナス1%強の減少となり、消費を下押しするだろう。
第二は、中央銀行による政策金利の利上げだ。調達金利が上昇し、投資需要が落ち込むと予想される。欧州中央銀行(ECB)は、22年7月の0.5%の利上げを皮切りに、これまでに累計3.5%とハイペースで利上げを行ってきた。足元のインフレ動向に鑑みれば、今年5月…
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週刊エコノミスト
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