ウクライナ和平案と前台湾総統の初訪中から読み解く習外交の戦略 遠藤誉
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習近平氏のウクライナ和平への意気込みは、「台湾の平和統一」というレガシーづくりと深い関係がある。
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中国が国際政治の舞台で外交を積極化している。2月24日、「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」という12項目からなるウクライナ戦争の和平案を発表した。戦火の拡大を抑制し、まずは当事国が停戦に向けた話し合いのテーブルに着き、「対話」により問題解決を求めるべきだというのが和平案の基本だ。
その上で、3月10日、北京においてイランとサウジアラビアの7年ぶりの国交回復を仲介、20日には習近平国家主席がロシアを訪問して、プーチン大統領との間で和平実現に向け強い意欲を示した。
米の一極支配を打破
その背景には、政権3期目に入った習近平氏には「台湾の平和統一」というレガシー(政治的遺産)を残せる否か、中国人民の厳しい審判の目が待っているという切羽詰まった状況があるとともに、米国による世界一極支配から抜け出し、グローバルサウス(発展途上国・新興国)を味方に付けた多極的な新世界秩序を構築したいという狙いがある。
習近平氏が最大の課題としているのは、「米国に潰されないようにする」ことだ。そうすれば、10年後あたりには中国が経済・軍事面で米国に代わり、世界1位の国に浮上することも不可能ではなくなる。
そのために習近平氏はまず、グローバルサウスを中国側に引き付ける必要がある。これは、毛沢東時代に周恩来首相が参加した1955年のバンドン会議(アジア・アフリカ会議)以来の国家戦略で、発展途上国と関係を深めて、経済発展をしていこうという思想に基づく。その中には、もちろん中東も入っている。
中国は、米国が「世界の覇者」のようにふるまえているのは、「ドル支配」があるからだと見ている。その根底には、ドルによる石油取引がある。そのドル支配を崩す枠組みの一つが、人民元による石油取引だ。そこで、反目する中東の大国であるイランとサウジアラビアの国交回復を仲介することで、中東における中国の信頼を高め、人民元による石油取引を促す。それは、米国による世界覇権を弱体化させることにつながる。
これは、台湾に対する大きなメッセージにもなる。つまり、中国は言葉だけでなく、実際に、米国が成し遂げることができなかったイランとサウジの和睦を仲介し、しかも、話し合いによって解決させた平和を重んじる国であるというメッセージだ。同時に、グローバルサウスの国々に対し、「中国は決して武力で物事を解決しようとしている国ではない」と訴えることになる。
習近平氏は「人類運命共同体」を外交戦略のスローガンとし、世界の分断と冷戦構造の再現を批判している。世界人口の85%を占める発展途上国・新興国は、経済のグローバル化の恩恵により、経済発展を遂げてきた。だが、ウクライナ戦争は、ウクライナを戦場とした、ロシアとNATO(北大西洋条約機構)との代理戦争と化し、世界を冷戦構造に引き戻し、分断するものだ。
ここで、中国の態度が断固として揺らがなければ、グローバルサウスの国々は中国を信じてついてきてくれる。これらの国々は中国同様、ロシアの武力行使は肯定しない。したがって、中国はロシアに武力支援はせず、米国から制裁を受けている国同士として対露経済支援だけはする。彼らは、対露制裁に関しては、「中国が賛同…
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週刊エコノミスト
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