ASEANの域外輸出増で対中輸入が増加 逃れられぬ「中国の呪縛」 越山祐資
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域外への輸出を増やすには、中国からの部素材が不可欠。「供給網の脱中国」は今のところ、掛け声倒れだ。
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近年、東南アジア諸国連合(ASEAN)の輸出が加速している。輸出金額(域内貿易を除くベース)は既に日韓台を上回り、2022年末時点では米国に肉薄している。輸出増加の背景には、西側諸国を中心とした中国依存脱却を志向する世界的な供給網再編の中で、中国からASEANに輸出拠点が分散化する動きがある。
サプライチェーンの受け皿として台頭し、輸出が増加することは、ASEANにとって経済発展の「機会」で、歓迎すべき事象といえよう。先進国に対しても中国依存度低減に貢献している。しかし、再編を受けた輸出増加の裏で、ASEANの中国からの輸入依存度は高まっている。むしろ「リスク」が蓄積されていることに注意が必要だ。
電子部材で依存度が上昇
ASEANの対中輸入依存は、18年に始まった米中貿易摩擦以降、原材料・部材などの中間財で深化した。図1は、セクター別に中間財の対中輸入金額および対中輸入依存度(対中輸入金額÷輸入総額)を、17年と22年の2時点について示したものだ。とりわけ電子機器関連が右上方に推移し、金額および依存度とも米中貿易摩擦前後で拡大したことが読み取れる。細かい品目を国別に見ると、集積回路やバッテリー、スマホ部品などでベトナムやマレーシア、フィリピンの対中輸入が増えた。
こうした中国依存の深化は、ASEANが受け皿となるサプライチェーンの再編が、根本のところで中国製の部素材と強く結びついていることをうかがわせる。
中国は、豊富な鉱物資源・農業資源のほか、金属・化学といった資本集約型産業で巨大な生産能力も有するために、素材系業種では突出した競争力を持つ。機械系業種においても、集積回路など比較的付加価値の高い部品を生産できる点で、ベトナムのような後発国に対する優位がある。従って、これらの部素材の生産工程、つまりサプライチェーン上流では、中国の機能をASEANが一朝一夕で代替することは容易ではない。
一方、組み立てなど低廉な労働力を必要とする下流工程においては、今や中国より賃金水準の低いASEANの方が魅力的に映る。そのため、下流ほど流入しやすく、上流は流入しづらいという非対称性が生じる。この非対称性が、近年観察されるASEANの中国製部材への依存深化の背景と考えられる。地理的な観点からも、近接エリア内でのサプライチェーン構成は部材輸送経路を最適化する上で合理性があり、中国に近いASEANは元来、中国との相互依存が強まりやすい条件下にある。
要するに供給網再編の動きは、中国を核とするアジア広域のサプライチェーン“ファクトリー・アジア”にASEANを組み込む側面がある。結果、下流に位置するASEANは域外輸出増加と同時に、上流での中国の存在感が強まる。ASEANの輸出拠点としての台頭、グローバルサプライチェーンとの結びつき強化は、中国依存深化と表裏一体の関係にある。
そして中国依存の深化は、二つのリスクを高める可能性がある。
第一に、中国からの部材調達が停滞するリスクだ。上流工程における中国依存が強まったASEANでは、中国の供給が停滞した場合にサプライチェーンの目詰まりを起こす可能性が高まっている。新型コロナ要因については、…
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週刊エコノミスト
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