国際・政治

米国経済は来春先から景気回復へ 地政学的リスクに注意 荒武秀至

ニューヨーク・タイムズスクエアには大道芸人が戻り、多くの人で活気があふれる(23年3月)筆者撮影
ニューヨーク・タイムズスクエアには大道芸人が戻り、多くの人で活気があふれる(23年3月)筆者撮影

 金融不安が起きた米国経済だが、ステーキハウスやシアターは満席で消費は活発。利上げで下押すも、景気はほどなく回復に向かう。

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「新型コロナウイルス禍で景気失速」なら分かるが、実際の米国経済は、景気が加速した。実質国内総生産(GDP)成長率は2021年5.9%、22年2.1%と、米連邦準備制度理事会(FRB)が持続可能とみなす潜在成長率1.8%を上回る。この逆説的な景気拡大の背景には三つの要因がある。

 第一に手厚い政策対応だ。コロナ蔓延(まんえん)をうけ、FRBは20年3月から2年間もゼロ金利政策を維持した。また国債等を購入して資金供給を行う量的緩和を実施し、FRBの資産規模は約4兆ドルから9兆ドル近くに膨張した。さらに政府も20~21年に2.3兆ドルもの支援金を家計に給付し、この規模は年間GDPの約1割に及ぶ。これら巨額の資金供給が、株式・不動産の高騰を通じて富裕層には資産効果を、中低所得層には潤沢な貯蓄をもたらし生活を助けた。

 第二に、23年初からは暖冬が景気を押し上げた。筆者は3月上旬にニューヨークを訪れたが、人通りが多いのに驚いた。例年、この時期はハドソン川が凍結し、路上も雪と氷で歩きにくく人出は少ないが、今年はセントラルパークになごり雪があっただけで経済活動は活発、ステーキハウスは午後7時には満席だった。1月と2月の強い経済指標に合点がいった。

 そして第三は、コロナ明けの反動需要でサービス消費が好調なことだ。マスク姿は空港でみかける日本人旅行者だけで、米国ではコロナは過去のものだった。ミュージカルやジャズなど娯楽はもちろん、ショッピング・外食・宿泊・観光は盛況で、レストランのオーナーに人員削減の予定を尋ねると、「このホールを見てみろ、人手が足りなくて募集中だ。人件費が重しになるまで現在の従業員は抱え続ける」。サービス業の労働市場が引き締まり、賃上げのサービスインフレへの直結を実感した。

 ところが“強い景気”の潮目は変わりつつある。金融政策は22年3月から累積4.75%幅の利上げを実施、財政政策も緊縮へ転換した。株価と不動産価格は下落し資産効果も減衰、さらに過剰貯蓄を使い果たし、クレジットカードの30日以上延滞率(ニューヨーク連銀発表)は21年末の4.1%を底に、22年末には5.9%に上昇した。暖冬による景気押し上げも一過性だ。

大手行はどこも健全

 コロナ蔓延中は巣ごもり需要と在宅勤務が浸透してIT産業と金融業が特需景気に沸いた。しかしコロナ後は逆回転し、ITと金融は大幅な人員削減を迫られた。資金繰りに窮するIT企業が一斉に預金を取り崩した結果、IT産業が集中するカリフォルニアを地盤とするシリコンバレー銀行(SVB)は3月10日に破綻、暗号資産関連企業との取引が多いシグネチャー銀行も12日に破綻へ追い込まれた。金融不安を抑えるべく、破綻2行の預金を全額保護すると米財務省は発表したが、原則は上限25万ドルまでで、中小銀行から破綻リスクの少ない大手行へ預金移し替えが続く。金融不安の高まりから、米当局も金融機関の監督・規…

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