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都市農業に住民の呼び込みを 小口広太

援農ボランティアで健康的に汗を流す(東京都調布市で2022年9月)撮影・武市公孝
援農ボランティアで健康的に汗を流す(東京都調布市で2022年9月)撮影・武市公孝

 援農ボランティアに支えられる都市農業。だが、住民と農業とのつながりは、まだまだ希薄だ。

希薄なつながり 縮まらぬ距離

 2015年に制定された都市農業振興基本法では、都市農業への評価が「多様な機能の発揮」という言葉で示された。対応すべき政策課題として、「国土保全」などに加え、「防災」「農作業体験・学習・交流の場の提供」「農業に対する理解醸成」が新たに加わった。とりわけ、体験・学習・交流を通じた農業への理解醸成は、消費者との距離が近い都市農業固有の機能として期待されている。

 その代表的な取り組みが「市民農園」「農業体験農園」「援農ボランティア」である。市民農園は、主に自治体や農家が開設し、利用者が小区画を借りて自由に栽培する。農業体験農園は、農家が農業経営の一環として開設し、道具、種・苗、肥料などを準備して、プログラムに沿って指導する。利用者は、体験料と収穫物の購入費用として代金を支払う。援農ボランティアは、都市住民が経営を維持・発展させたい農家の下で継続的に農作業を行い、サポートする取り組みである。

頼られるボランティア

 この中でも、援農ボランティアは、農業経営に直接関与する分、他と比べて農家、生産現場との距離が近い。しかも、都市農業への貢献を動機に活動している人が多く、活動前に事前講習などを受け、栽培技術や農業への理解を深めた上で現場に出ている。受け入れ農家も援農ボランティアの存在を前提に日々の作業を行う。その位置付けは、農業経営を支える「パートナー」である。

 東京都では、1990年代後半以降、自治体が主導し、JAと連携しながら援農ボランティアの育成とマッチングを制度として広げた。そのきっかけは、都が開始した「援農システム推進事業」で、96~97年度の2年間、国分寺市と八王子市でモデル事業を実施した。その後、援農ボランティア制度を導入する自治体が増加し、その数は半数にのぼる。

 国分寺市は、87年に決定した「長期新基本構想」で「農のあるまちづくり」を目標に掲げた。そのひとつとして、92年度から農業体験を通じて「都市農業の良き理解者」を育てることを目的に「国分寺市市民農業大学」を開講した。市の経済課担当者の言葉を借りれば、修了生は「国分寺の農業の応援団」になっているという。

 募集人数は30人(市内在住者限定)で受講期間は4~12月、作業日は週3回である。受講生には、市が農家から借りた実習専用の圃場(ほじょう)を準備し、講師の農家が農業の基礎を一から指導する。

 野菜栽培がメインで、耕運、土づくりや種まき、定植、支柱立て、収穫などを行う。その他にも、植木、鉢花、果樹の実習が2回ずつ、座学が作目ごとに1回ずつある。出席率30%以上の受講生には、修了証書が授与される。この修了要件は、週1回からでも気軽に農業に親しむ機会を提供する狙いがある。平日と土・日曜日に作業日を設定し、受講生の多様なニーズに応えている。これまで受講生の9割以上が修了している。

 市民農業大学を開講後、都の要請を受けて前述のモデル事業を実施し、98年度から市単独で「援農ボランティア推進事業」を開始した…

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