教養・歴史書評

文革による殺人の実態 丹念な取材で記録 加藤徹

 
 

 最近「戦後は終わった。新たな戦前が始まる」という言説を耳にする。中国人も同様だ。すでに「文革後」は終わり新しい「文革」が始まった、という嘆息も、漏れ聞こえる。

 王友琴著、小林一美編訳、佐竹保子他訳『血と涙の大地の記憶』(集広舎、6490円)は、1966年から10年間続いた「文化大革命」で理不尽に殺された膨大な人々の生々しい記録だ。

 中国は文革後、鄧小平時代に高度成長路線へシフトした。習近平時代に入ると、鄧小平路線を批判し文革を再評価する声もでてきた。

 文革を推進した「四人組」の一人で理論家の張春橋(故人)の娘は、もし中国が「文革」を続けていれば今ごろ人民の生活は一層よくなっていたはずだ、と主張する。

「パパ達の計画は、共同で豊かになる道だった。一部分の人だけが先に富むものではなかった」

 中国で文革の再評価が進む一因は、中国共産党が文革の悲惨な実態を隠してきたからだ。

 本書の著者は1965年、飛び級で北京の名門女子中学に入学した。翌年、文革が始まる。彼女は学校で、女生徒の紅衛兵が、女性副校長を殴り殺すのを見た。著者自身も文革で辛酸をなめた。文革後は北京大学中文系に入学。後に渡米し、米国の…

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週刊エコノミスト

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