サプライチェーンのESG基準強化 キーリー・アレクサンダー竜太
有料記事
企業行動に関するESG(環境・社会・ガバナンス)の規制強化が進んでいる。特に欧州で先進的な動きが見られる。
人権侵害リスクの特定・防止を重視
近年、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関心を持つ企業や投資家が増えている。
企業がESGに取り組む理由には、社会的責任や法的規制への対応、リスク管理、顧客や従業員、投資家の要望などがある。
企業が環境や社会的な課題に取り組むことで、ビジネス上のリスクを軽減し、競争優位性を得ることができる。それだけでなく、投資家の信頼も得やすくなり、資金調達の面でもメリットが生まれる。ESGは長期的なビジネス展開や社会的貢献を考えるうえで欠かせない要素となってきている。
世界的にESG投資が増えているが、特に欧州ではその割合が増えている。
各国でESG関連のガイドラインや規制の整備が進むなか、特に着目すべきは、グローバルなサプライチェーンにおけるESGマネジメントに関する各国の規制強化の動きだ。
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、グローバルサプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性が鮮明となり、現在、その強靭(きょうじん)化のため世界レベルで政府の介入が進展している。特に、医薬、医療機器、農業、食品、半導体、デジタル技術、インフラ、エネルギー転換関連技術など、重要物資や基幹インフラなどのサプライチェーンに関してESGマネジメントの強化が必要になっている。サプライチェーン全体でESGリスクのマネジメントを実践することが重要となっているのだ。
欧州で進む規制強化
このような動きには、国際的な二つの規範が関係している。一つは、2011年に国連人権理事会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」である。この指導原則では、企業が人権を尊重する責任を明確にし、事業活動およびサプライチェーンを通じた「人権デューデリジェンス(DD)」(人権侵害リスクの特定・防止)の実施を求めている。
もう一つは、11年に改定された「OECD(経済協力開発機構)多国籍企業行動指針」である。このガイドラインは、多国籍企業が世界経済の発展に重要な役割を果たすことを踏まえ、期待される責任ある行動について定めたもので、環境分野も含めたDDの実施が明確化されている(図1)。
これらの規範を含む国際的な原則や宣言、ガイドラインに基づき、サプライチェーンESGマネジメントのうち、特に人権尊重の部分については、欧米諸国を中心に「ソフトロー(法的拘束力のない規範)」から「ハードロー(拘束力のある法律)」へと変更させる動きがあり、この動きに他の国や地域が追随することも予想される。
これまで、国際的な原則や宣言、ガイダンスなどの枠組みのもとで、多国籍企業を中心に、人権DDの自主的な取り組みが求められてきた。企業は自社の活動やサプライチェーンにおいて、強制労働や児童労働などの人権侵害が行われていないかを把握し、予防策や是正策、救済措置を講じる取り組みが求められていた。
サプライチェーンを可視化
しかし、欧州では自主的な取り組みでは不十分との判断から、法制化によって人権DDを義務付ける国が…
残り1406文字(全文2706文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める