スポーツの“データ革命” 成塚拓真
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ボールや靴にセンサーを仕込み、スポーツのデータを取得する技術が進化している。
AIがスポーツ選手を超える日
スポーツデータの取得は、①試合映像の撮影・解析技術、②全地球測位システム(GPS)や加速度センサーを用いたセンシング技術(さまざまな情報を計測・数値化する技術)の二つに支えられている。いずれの技術もコンピューターに大量のデータを学習させ、コンピューターが自ら判断できるようにする「機械学習」の進化とセンサーの精密化・小型化を背景に、近年目覚ましい発展を遂げた。
例えば、2022年サッカーワールドカップ・カタール大会でも活用されたゴールラインテクノロジー(ゴール判定補助技術)は記憶に新しい。これはまさに、サッカーボールの中に仕込まれた加速度センサーと映像解析システムの融合によって生み出された最新システムである。
さまざまなスポーツ競技の中でも、サッカーやバスケットボール、テニスなどの対戦型競技では、「データ革命」といわれるほどの変化が起きている。その立役者が試合中の出来事を事細かに記録した新しいタイプのデータである。こうしたデータは、試合分析やパフォーマンス評価はもちろん、選手のコンディション管理からスカウトやスポーツベッティング(賭博)に至るまで、その活用の可能性は計り知れない。ここではデータ革命が急速に進展するサッカーを例に、これらのデータを簡単に紹介しよう。
サッカーで起こるイベントは、ボールに関連する「オン・ザ・ボール・イベント」とボールに関連しない「オフ・ザ・ボール・イベント」に分けられる。このうち前者のデータはプレーデータとも呼ばれ、パスやシュートなどのアクションがいつ・どこで・誰によって行われたかを試合映像から識別するアノテーションという作業によって取得される。これを用いると、パス成功率やシュート数といった基本スタッツ(選手やチームのパフォーマンスを数値化した情報)の算出はもちろん、各アクションが起きた位置や時間などを考慮したさまざまな分析が可能となる。
一方、後者のデータには、フィールド上の全ての選手の位置情報が1秒間に10コマ以上の解像度で記録されている。このデータはトラッキングデータと呼ばれ、ここ10年、サッカー界で急速に浸透した。
国際サッカー連盟(FIFA)は一定の基準を満たしたトラッキングシステムに認証を与えており、このシステムの開発競争も世界的に激化している。Jリーグでは、15年ごろからほぼ全ての試合でトラッキングデータの取得が始まり、このデータを基にしたスタッツは公式サイトでも公開されている。
トラッキングデータを用いると、試合中の選手の走行距離やスプリント(時速25キロ以上のスピードで1秒以上走ること)の回数などの算出はもちろん、フォーメーション(選手の配置)の変化やポジショニング(位置取り)の分析なども可能となる。例えば図では、Jリーグのトラッキングデータを基に選手の勢力圏(ボロノイ図)を描画している。また、プレーデータとトラッキングデータを組み合わせることで分析の幅は無限に広がる。例えば、機械学習を用いて試合中のある…
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週刊エコノミスト
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