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発送電分離は再エネ導入にプラスか 杉本康太

 発送電分離が再エネ導入に有意な効果があることが、計量経済学を用いた分析で明らかになった。

「機能分離」に風力発電を増やす可能性

 東日本大震災で顕在化したさまざまな問題に対処するため、電力システム改革が行われてきた。改革の一つが、電力会社から送配電部門を独立化する「発送電分離」であった。送配電部門の独立化は、電力産業のうち、発電・小売事業に新規参入者を呼び込み、競争を増加させることで電力価格の低下や多様なサービスの提供などを目指している。

 発送電分離は、太陽光発電や陸上風力発電などの再生可能エネルギー(再エネ)の導入のために必要な政策としても理解されてきた。発送電分離が十分に実施されない場合、新規参入者による再エネの導入が阻害されるのではないかという懸念があったからだ。発電事業を新たに行うためには、既存の送配電網に接続する必要があるが、その送配電網を所有かつ運用しているのは、既存の電力会社である。“燃料”が太陽光や風の自然エネルギーであり、限界費用(生産量を1単位増やした場合の追加費用)がほぼゼロである再エネが増加すると、電力会社は自社の火力発電の稼働率が減少したり、電力市場の価格が低下したりして売電収入が減少するため、再エネの導入を阻害するインセンティブと能力を持つと考えられる。

 しかし再エネの導入が進まない原因は、再エネの発電費用の高さや発電量が天気で変動することであって、発送電分離は関係ないという主張もあった。発送電分離が再エネの導入に与える影響は、学術的にも解明されていなかった。

発送電分離の3形態

 この論争に決着をつけるべく、筆者はこれまでに欧米で実施された発送電分離が、再エネの導入量にいかなる影響があったのかを分析してきた。日本で送配電会社を「持ち株会社と子会社」のように資本関係を維持しながら別会社化する法的分離が沖縄電力を除く9社で実施されたのは2020年だったが、欧米では00年代までには発送電分離が実施されていた。そのため、欧米ならば発送電分離実施前後のデータを得ることができた。更に日本では全ての電力会社が法的分離を選択したのに対し、アメリカやドイツでは、第三者による送電網の運用や資本関係を持たない別会社化など、国内の電力会社が選択した発送電分離の強さに差があった。そのため、「差分の差分法」という計量経済学の手法を使うことができた。政策の因果的な効果に迫るためには、計量経済学を用いた実証分析が有効である。

 筆者はまずアメリカに着目した。アメリカでは、送電網の運用主体を電力会社から独立した非営利の送電系統運用者(ISO、Independent System OperatorまたはRTO、Regional Transmission Operator)に移管する、「機能分離」と呼ばれる発送電分離が行われていた。この場合、電力会社は送電線を所有するが、その運用には関与できなくなる。アメリカでは電力供給のおよそ6割が、ISO・RTOによって運用されていた。筆者は1990年から16年までに再エネのうち最も普及が進んでいた陸上風力発電のデータや、発送電分離…

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