教養・歴史書評

御物はいかにして守られたか 正倉院前事務所長が解説 今谷明

 正倉院といえば、奈良東大寺の境内近辺にあって、主として聖武天皇の遺愛の宝物を伝え、「勅封」という制度によって約1300年にわたって守り伝えられてきた施設である。

 ここで紹介する西川明彦著『正倉院のしごと 宝物を守り伝える舞台裏』(中公新書、990円)は、長年正倉院事務所に勤務し、所長も務めた正倉院きっての「生き字引」ともいえる著者が、院と宝物を縦横に語りつくした興味深い書である。

 宝庫と宝物は「御物」(天皇の所有物)として国宝にも重要文化財にも指定されていなかったが、1997(平成9)年に建物の正倉院だけが国宝に指定された。これは東大寺の建物が「世界遺産」に指定されたことによる措置らしく、宝物は依然として国宝・重文、すなわちわが国文化財の指定外で、「御物に準ずる物件」として宮内庁の管理下に置かれている。

 宝物中の白眉(はくび)である琵琶(びわ)やカットグラス(碗(わん)、杯)がペルシャ産であることから、シルクロードの終着駅と称されることも多いが、著者によると宝物の9割以上は実は国産品であるという。それでも厳重に守られてきたのは、「勅封」なる制度が、平安期以降の天皇の権威の持続という「…

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