再生医療には盲点あり 第三者委の独立性にも疑問 一家綱邦
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再生医療を巡る法制度には盲点がある。国が“お墨付き”を与えたようにみえても、提供される「医療行為」の有効性は、患者自身で見極める必要がある。
多くの有効性は「未確認」
日本でも「再生医療」は広く認知されてきた。医療産業界に目を向けると、経済産業省によれば、その市場規模は2050年には国内市場で2.5兆円、世界市場は38兆円と予測される。厚生労働省が定期的に更新する「再生医療等安全性確保法の施行状況について」に基づけば、23年2月末時点での、国内医療機関が同省に届け出ている再生医療提供計画は、実にさまざまな病気や障害に対する“治療”や“研究”があり、合計5170件に上る。同じく同省の定期報告概要によれば、1年間に再生医療を受けた人は平均約5.5万人と考えられる。
失われた機能を回復させることなどを目指した画期的な新治療として期待される再生医療だが、現時点で期待を膨らませるだけでは懸念もある。一見、国が“お墨付き”を与えたようにみえる再生医療クリニックであっても、見極めることが大事だ。
規制する二つの法律
「再生医療」について、日本再生医療学会の運営するウェブサイト「再生医療PORTAL(ポータル)」では、次のように説明される。
「『再生医療』とは、機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して、細胞や人工的な材料を積極的に利用して、損なわれた機能の再生をはかるものです。これまで治療法のなかったケガや病気に対して、新しい医療をもたらす可能性があります。(中略)我が国では、世界に先駆けて再生医療を推進するための法律が整備されたほか、薬や医療機器の安全基準を定めていた法律が改正されるなど、国を挙げて新しい医療を推進するという体制が構築されています。しかし、現在(22年6月)、“厚生労働省の承認を得られて、健康保険が使える再生医療等製品”は16種類に限られ、“多くは有効性や安全性などが確認中の段階”にあります」(“”および、中略は筆者)
これを補足すると、日本には再生医療の実施に関する二つの法律がある。通称で「再生医療安全性確保法(再生医療法)」と「医薬品医療機器法(薬機法)」だ。ざっくり言えば、再生医療法は細胞を使って医師が患者を治そうとする「行為(=治療・研究)」を規制する法律で、薬機法は再生医療を行う際に医薬品や医療機器のように使う「再生医療等製品」の開発・製造・販売を規制する法律だ。そして、同学会の「厚生労働省の承認を得られて、健康保険が使える再生医療等製品」とは、国が薬機法に基づき、医薬品と同様、再生医療等製品の安全性や有効性を認め、製造・販売を承認したものだ。
一方、一般の患者・消費者がインターネットを検索して見つけたり、テレビの情報バラエティー番組で紹介されたりする“新たな治療としての再生医療”の多くは再生医療法の手続きに従って行われ、「専門家等が集まった委員会による審査」は受けるが、国の承認、いわゆる“お墨付き”を得た治療法ではない。
再生医療法は、医療機関に、法が定める基準に従った再生医療の提供計画を作成し、国が「認定」した委員会「認定再生医療等委員会」で審査を受け、再生医療の実施を国に届け出ることを義務づける。現在は認定を受けた委員会は全国に163件あり、審査を受けた上で実施される再生医療は、専ら自由診療、つまり「国が安全性・有効性を確認して健康保険の対象にできると判断したものではない治療」として、患者が高額な治療費を負担する。
効果は期待できるか
それでは、法に従って自由診療で行われる再生医療を安心して受けてよいかと問われると、筆者は“Yes”と答えかねる。一般には認識されていない再生医療法を巡る盲点があるからだ。
まず一つ目の盲点は、再生医療法は名称に「安全性確保」という言葉があるとおり、患者に投与される細胞の「安全性」を確保するかもしれないが、治療自体の「有効性」までを保証する法律ではない、ということだ。保険診療と同レベルの有効性は科学的に証明されていない治療法であることを理解して、その治療を受けるか(=大金を賭ける価値があるか…
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週刊エコノミスト
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