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楽天モバイルに三つの“切り札” 成否がグループ経営も左右する 石川温

格安料金を武器にする楽天モバイルの営業店
格安料金を武器にする楽天モバイルの営業店

 楽天グループは今後、2026年末までに8000億円以上の社債償還が控える。楽天モバイルが追い風を生かせるかどうかが、グループ全体の命運を握る。

設備投資が重荷の携帯電話事業

 楽天グループ(G)の金融やインターネット通販などの事業は好調だが、2020年に新規参入した携帯電話事業「楽天モバイル」(楽天Gの完全子会社)が足を引っ張っている。経営の重荷となっているのが設備投資だ。ゼロから携帯電話事業に参入した楽天モバイルは、基地局と呼ばれるアンテナなどの設備を全国に新規設置する必要があった。参入を表明した17年、基地局整備に6000億円規模を投じる予定とした。しかし、それでは足りず、のちに1兆円を超える金額に引き上げている。

 今年2月下旬、スペイン北東部のバルセロナ──。世界最大級のモバイル関連見本市「MWCバルセロナ」に出向いた楽天Gの三木谷浩史会長兼社長は、筆者ら日本人記者団に余裕の表情でこう話した。「前から言っているが、ネットワーク設備計画をすべて前倒しした。逆にいえば、損益分岐点さえ超えれば全部利益になる」

 楽天モバイルは26年までの6年間で全国に基地局を整備する計画だったが、3年で完了するペースで進めている。つまり、赤字を3年分、前倒しできるというわけだ。基地局数は今年中に6万局に達し、人口カバー率99%以上にすることを目指す。

 ただ、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの既存3社の基地局数はそれぞれ20万局近い。基地局数が他社に比べて見劣りしているのは明らかだ。通信品質で他社に肩を並べるには、さらに数兆円レベルの設備投資が必要になるとみられている。

「0円」終了で流出

 楽天モバイルは20年に「第4のキャリア」として華々しく新規参入した際、月額3000円程度でデータ通信が使い放題になるという低料金プランで顧客を一気に獲得する戦略を描いていた。しかし、ネットワークの全国展開が思うように進まず、「20年末までに契約件数300万件」という目標は達成できなかった。

 そもそも、楽天モバイルの新規参入が実現した背景には、18年に携帯電話料金の値下げを強く訴えた菅義偉官房長官(当時)の意向があった。4社目が参入することで料金競争が期待できるという考えだ。そうして楽天モバイルは20年にサービスを開始したが、同社に既存3社から顧客を奪うだけの競争力は乏しく、菅氏の思惑は不発に終わったかにみえた。

 値下げ競争が起きずに業を煮やした菅氏は、同年に首相に就任すると、既存3社に値下げを強く迫るようになった。それを受けて既存3社は21年、格安プランを新設したという経緯がある。楽天モバイルは菅氏からハシゴを外された格好となった。

 しかし、起死回生とばかりに同年、「データ通信を使わなければ通信料が0円」という内容のプランを導入。これにより一時的にユーザーは増えたものの、通信料収入が増えない状況に陥った。結局、コスト負担に耐えきれず、22年に0円プランを廃止。契約件数は減少に転じ、他社へと流出した(図)。ただ、足元では再び増加に転じ、23年1月現在の契約件数は451万件に戻っている。

プラチナバンドにめど

 三木谷氏は以前、契約件数の長期目標を1200万件と掲げたことがあった。しかし、22年11月~23年1月の3カ月間は7万2000件しか増えていない。このペースが続くと、目標達成までに17年近くかかる計算となる。とはいえ、三木谷氏には顧客獲得に対して絶対の自信があるようだ。バルセロナではこうも語っている。

「料金プランはちょっと安くしすぎたかもしれない。しかし、日本のユーザー層を分析すると、1ギガバイトも使っていないのに(月額)6000円、7000円を支払っている人がすごく多い。これから次第にあまり使っていないのに高い料金を支払っている人が『払いすぎていたな』と気が付いてくる。その時に大きな動きがあるのではないか」

 楽天モバイルには切り札が三つある。

 一つ目は、つながりやすい周波数帯「プラチナバンド」を手に入れることだ。同社は参入以来、総務省からプラチナバンドの割り当てを受けら…

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