既存企業の組織を“軽く”変革 新興との協業で価値創造に道 藤原雅俊
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日本経済の処方箋/20 日本企業が破壊的なイノベーションを起こしにくくなっている。その理由として挙げられるのが、組織の「重さ」だ。
イノベーションは経済発展の原動力である。だが日本の産業界を長く占めてきた既存の大企業において、そのイノベーション力に陰りが見えると言われて久しい。
大企業のイノベーション活動を調査してきた筆者も、確かに課題を感じる。社内には多様な経営資源が豊富に蓄えられているものの、その動員と活用に苦労している場面に何度も出くわすからだ。エース人材の囲い込みや成果の帰属を巡る衝突など、各部署の思惑が遠心力として働き、必要な資源がなかなか集結しない。社内の資源動員コストが思いのほか高いのだ。
大企業もイノベーション力の低下を自認している。日本生産性本部が上場企業及び資本金3億円以上の非上場企業に対して行った質問票調査によれば、日本企業は破壊的なイノベーションを起こしにくいという見解に同意する回答が66.0%(2018年調査)、74.5%(19年調査)に達している。
その社内制度的な理由も尋ねた19年調査では、「手続きや会議などが多く意思決定が遅いこと」を指摘する声が最も多く46.4%に及ぶ。組織の動きが鈍くイノベーション活動が滞っているということだ。組織が“重たく”なっているのである。
パワーの総量に大きな差
重い組織が抱える課題は、一橋大学の沼上幹名誉教授を中心とする研究グループが行った調査でも指摘されている。
この調査では、日本企業のビジネスユニット(BU、社内の事業単位)に対して「メンツ重視」や「内向きの合意形成」「決断不足」の程度など12項目を尋ね、その平均値を「組織の重さ」と名づけて重い組織と軽い組織の特徴を比較分析している。04~16年度に隔年で計7回行われた質問票調査に筆者も途中参加したが、調査年度によらず共通する特徴が数多く発見され、興味深い研究プロジェクトだった。
その一つがコントロールグラフだ。これは、社内の各階層が持つ影響力、つまりパワーを関係者に評価してもらい、その値を階層別にたどったグラフのことを指す。図に示したのは、各回調査で「組織の重さ」の値が上位10%・下位10%となったBUを抽出してそれぞれ集計し、軽い組織、重い組織としての平均像を描いたコントロールグラフだ。この山なりの形状は、次の2点を教えてくれる。
第一に、山の大きさだ。軽い組織では、全階層で重い組織を上回り、大きな山を描いている。階層を問わず互いに強く影響し合って物事を進める姿が思い浮かぶ。一方の重い組織では、あらゆる階層でパワーが劣る。その結果、山の大きさが示す組織全体のパワー総量に大きな差が生じている。
第二に、山の勾配だ。BU長を頂点として、軽い組織ではパワーが緩やかな右肩下がりで階層を降りるのに対し、重い組織では急勾配で滑り落ちる。そのため、パワー格差は階層が下がるほど広がり、担当者レベルで最も大きく開く。軽い組織では現場も元気であるのに対し、重い組織では現場に行くほど白けていく姿が連想される。
軽い組織では下位層も強いパワーを持つということは、ヨコにフラットな有機的組織の特徴があることを示唆する。だが興味深いことに、初回調査の結果を論じた沼上他『組織の〈重さ〉』(日本経済新聞出版、07年)は、軽い組織において機械的組織と有機的組織の特徴が併存していると指摘する。業務遂行に要する情報が公式的な経路を通じて上下で円滑に流れており、タテのヒエラルキーを重んじる機械的組織の特徴も認められるのだ。他方、重い組織ではこの公式的な情報流が滞っている。
公正な環境整備の進展期待
組織改革では柔軟性や自由度の向上が推奨されがちだが、こうした機械的組織の特徴を欠く状態で自由度を高めると、かえって軽い組織から遠ざかりかねない。「会議が多く意思決定が遅い」と…
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週刊エコノミスト
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