「歌」とは何? バイオリニストが自らの存在理由を問う旅 梅津時比古
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クラシック 久保田巧 ヴァイオリンは歌う vol.3 オペラの愉しみ
音楽にとって「歌」とは近くて遠いもの、遠くて近いものかもしれない。その意味を最も知っているのがバイオリニストの久保田巧だろう。
久保田が「ヴァイオリンは歌う」と銘打ったコンサートシリーズを始めたのがコロナ禍中の2021年6月。第1回「ウィーン わが故郷の歌」はピアニストに津田裕也を得て、久保田が留学していたウィーンの「歌」を、クライスラーのバイオリン小品などで堪能させた。
このシリーズは久保田が自分の存在理由を問う旅でもある。「コロナ禍で発表の機会が貴重になった時、世の中に音楽家がたくさんいる中で、自分がどうあるのか、自分が好きなものは何なのか、と改めて考え、やはり『歌』だ」と再認識した。
子どものころから歌が好きで、中学1年の時《カルメン》を見て感動、オペラにのめり込んだ。歌に進まなかったのは「母によると妹のほうが美声ということで、私もそう思った」から。「習っていたバイオリンに力を入れた」
「楽器のレッスンで、よく『歌って』と言われます。子どものころは、そう言われるとただ雰囲気で弾いていたけれど、中学ぐらいになると『歌って何だ?』と考えるようになり、感情の込め方とか息遣いとかを考えるようになる。さらに大人になると、歌っています、で全編つらぬけばいいというものでもないことも分かってきた。セリフはないけれど、曲の中にはしゃべっているところもある」と気づく。久保田の原点である。
シリーズ第3回は「オペラの愉(たの)し…
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週刊エコノミスト
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