米金融危機 次の火種はオフィスなど商業用不動産 佐久間誠
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米商業用不動産向け貸出残高の7割近くを占めるのが中小銀行だ。米国で地銀が相次ぎ破綻したが、次の危機の芽として商業用不動産に注目が集まっている。
在宅勤務の普及でオフィス市場の調整長期化へ
米連邦準備制度理事会(FRB)による昨年3月以降の急ピッチな利上げに端を発した米銀破綻は、今のところ個別行の経営問題にとどまっているが、商業用不動産の市況悪化が火種となり、金融危機へと発展するリスクが高まっている。米国の商業用不動産の市場規模は24兆ドル(3240兆円)と、居住用不動産56兆ドル、株式47兆ドル、米国債24兆ドルに次ぐ第4位の資産規模であり、商業用不動産の市況悪化が加速すれば、足元では底堅く推移する米国経済もハードランディング(景気の急激な悪化)が避けられないだろう。
米国の商業用不動産市場は新型コロナウイルス禍前から過熱感が強まっていた。商業用不動産価格指数は2011年以降、一貫して上昇し、16年にリーマン・ショック(08年)前のピークを上回り、20年3月には同ピークを25%上回った(図1)。
コロナ禍ではFRBによる大胆な金融緩和に伴う低金利と過剰流動性を背景に、結果的には価格上昇が加速し、22年7月にはリーマン・ショック前のピークを63%上回る高い水準となった。その後は、FRBによる歴史的なペースでの利上げ(22年計4.25%)による逆風に耐えきれず、市場は下落に転じ、23年3月の商業用不動産価格は直近ピークから10%下落している。しかし、依然としてリーマン・ショック前の水準を47%上回っており、高値圏にあるといえる。
回復しない出社率
コロナ禍前の商業用不動産市場における主要テーマは、百貨店など従来型の商業施設がeコマースに侵食される「アマゾン効果」だった。eコマースの拡大で、配送インフラとなる物流施設が不動産投資家に選好される一方、来店客を奪われる商業施設が忌避される傾向が世界的に強まった。テクノロジーによる創造的破壊が、不動産市場にも及び始めたのである。
コロナ禍を契機に定着したオンライン会議システム「ズーム」にちなみ、「ズーム効果」と呼べる現象が米国オフィス市場に波及。米不動産大手JLLによると、23年1~3月期のサンフランシスコのオフィス空室率は26.4%(20年1~3月期6.3%)に上昇。サンフランシスコ地域に集積するIT企業は、リモートワークと親和性が高いことが背景であろう。
22年後半以降は、IT大手が人員削減を進めていることもあり、オフィス需要が大きく落ち込んでいる。米国最大のオフィス市場で、金融の中心地であるニューヨークでも空室率は16.1%(20年1~3月期7.6%)と、08年のリーマン・ショック時を上回る水準に上昇している。
米国におけるオフィス回帰の動きは緩慢である。米警備システム会社キャッスル・システムズによると、入館記録を基に算出した23年5月初めのオフィス出社率を見ると、サンフランシスコは44.9%、ニューヨークは48.4%にとどまる。過去半年間、全米10都市の平均出社率は50%で頭打ちとなっており、先行き回復するかどうかは予断を許さない。
米不動産調査会社グリーン・ストリートによると、23年4月の全米オフィス価格は直近のピークから25%下落した。ニューヨーク大学のグプタ教授らは、コロナ禍による在宅勤務の普及により、ニューヨークのオフィス価格は39%下落すると予想し、さらに下落するとの見方もある。また、19年末から23年5月にかけて、米REIT(不動産投資信託)市場は9%下落したが、オフィスセクターは56%下落している(図2)。オフィス市場の底はまだ見えない。
大手銀は健全性維持
米国では3月にシリコンバレーバンク、シグネチャーバンク、シルバーゲートバンクの3銀行が破綻。政策当局の迅速な対応もあり一時は平静を取り戻したかに思えたが、5月にはファーストリパブリックバンクが破綻し、銀行の連鎖破綻への懸念が高まる。
これらの銀行破綻に共通するのは、預金が大口顧客やITスタートアップなど特定産業に集中して負債サイドに偏りがある中、金利上昇による資産サイドの含み損が拡大し、預金の大量流出が起きてしまったことだ。銀行の支店前に預金者が長蛇の列をなすのではなく、スマートフォンを操作して簡易に預金の解約ができるため、かつてないスピードで銀行が破綻することとなった。
ただし、筆者は現時点で、これらの銀行破綻は個別行の経営問題にとどまり、リーマン・ショックのような金融システム全体を揺るがす脅威に至るとは見込んでいない。危機を察知する「炭鉱のカナリア」と呼ばれる米ハイイールド社債(低格付け社債)の利回りはまだ安定した水準にある。
また、流動性が枯渇し、銀行間の資金取引金利が急騰するような事態にも至っていない。リーマ…
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週刊エコノミスト
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