国際・政治エコノミストリポート

脅威の中国軍ドローン 東シナ海を管轄する基地に配備か 高橋浩祐

 中国軍が開発を進める高性能のドローンは、高価な迎撃ミサイルで対処するにしても割に合わず、米軍や自衛隊でも対処が難しい。

高高度 爆弾搭載 極超音速

 日本の領空に中国軍のドローン(無人航空機)が近づき、航空自衛隊機がスクランブル(緊急発進)する回数が増えている。中国軍は最近、台湾や沖縄県の尖閣諸島などが接する東シナ海を管轄する東部戦区の基地に、ドローン部隊を配備した可能性が高い。

 4月18日付の米紙『ワシントン・ポスト』(電子版)に載った記事は、米国だけでなく日本、韓国、台湾の安全保障関係者を震撼(しんかん)させた。ソーシャルメディアに流出した米政府の極秘文書を入手したとし、その内容を基に「音速の少なくとも3倍の速さで飛ぶ高高度スパイドローンを中国軍が近く配備する可能性がある」と報じたのだ。

 文書は米国防総省の情報機関、国家地理空間情報局(NGA)が作成し、「シークレット(極秘)」と記されている。それによると、中国軍のスパイドローンは「無偵(WZ)8」という名称。NGAが想定する飛行経路は、中国の東海岸を飛行する中国軍の轟炸(H)6M爆撃機から発進して上空10万フィート(約30キロ)を超高速で飛行するというものだ。

「音速の少なくとも3倍」とは時速3675キロ以上を意味する。米空軍のF22戦闘機が今年2月、米東海岸沖で撃墜した中国のスパイ気球は上空18.3キロを時速46キロで飛行していた。それと比べて、WZ8が飛行できる高度は格段に高く、速度も比べものにならない。

台湾と韓国に侵入想定

 さらに衝撃なのは、極秘文書に示された二つの飛行経路だ(図)。WZ8は東シナ海と黄海の上空でH6M爆撃機から切り離され、それぞれ台湾と韓国の領空に侵入すると読み取れる。二つの飛行経路は台湾海峡有事が朝鮮半島有事と同時発生する恐れを浮き彫りにする。北朝鮮が中国の動きに乗じる可能性もある。沖縄県の与那国島もぎりぎり偵察範囲に入っているように見え、日本も無縁でいられない。

 同紙の報道を受け、4月21日付の韓国紙『朝鮮日報』(日本語電子版)は、WZ8の偵察対象となる韓国の軍事施設は平沢(ピョンテク)、群山(クンサン)、烏山(オサン)にある米軍基地と伝えた。その飛行経路について「明白な韓国領空の侵犯だが、現在のところ韓米両軍いずれも迎撃手段が事実上ない」とも指摘した。

 記事によれば、「高高度を超音速で飛行している上、レーダーにほとんど捕捉されないステルス無人機なので、(米韓両軍にとっては)地対空はもちろん戦闘機から発射する空対空ミサイルでも撃墜が難しい」という。

 WZ8が日本の領空に侵入すれば、日本はどう対処するのか。浜田靖一防衛相は2月17日の記者会見で、外国の気球やドローンが日本の領空を侵犯した場合、「正当防衛または緊急避難に該当しなくても、(自衛隊は)武器使用をすることが許される」と明言した。しかし、米韓両軍と同様、空自の地対空ミサイル「PAC3」は高度20キロが限界でWZ8には届かない。

 海上自衛隊のイージス護衛艦から新型迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」を発射することは考えられる。ただ、このミサイルの推定価格は1発当たり約40億円もする。はるかに安価なWZ8を撃墜できたとしても、とても割に合わない。日本が対処するのは困難というべきだろう。

『ワシントン・ポスト』紙の記事によれば、中国軍がWZ8を配備する基地は安徽省六安市にある空軍基地とみられている。東シナ海を管轄する東部戦区に属する同基地に、中国軍が初めてのドローン部隊を新編したことは「ほぼ確実」と極秘文書は記した。

ハワイも作戦範囲に

 日本の脅威となる中国軍のドローンはWZ8だけではない。昨年11月、広東省珠海市で開催された中国最大の航空ショー「中国国際航空宇宙博覧会」では、数々の最新型が展示された。軍事専門家の注目が集まったのが、全長12.2メートル、高さ4.3メートル、翼幅24メートルと大型の偵察・攻撃型ドローン「翼竜3」だ。

 離陸できる重量の上限を示す「最大離陸重量」は6.2トンに達し、米軍の「MQ9リーパー」やトルコ製の「バイラクタルTB2」を上回る。最大16発のミサイルと爆弾を搭載でき、中国メディアが「ドローン版爆弾トラック」と呼ぶほど積載量を増やせたのは、中国製ターボプロップエンジンの性能が強化されていることが大きい。機体が大型化し、パワーアップされた分、1万キロ以上、40時間以上にわたって飛行でき、作戦範囲に米領グアムや米ハワイ州にある米軍基地が入る。

 音速の5倍以上の速さで飛行する極超音速ドローン「鳴鏑(MD)22」も公開された。中国科学院と広東空天科技研究院が開発したドローンで、再利用でき、偵察や攻撃など多様な任務に対応できる。両院の説明によると、最大飛行速度はマッハ7(時速8575キ…

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週刊エコノミスト

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