防大准教授の現役海佐が描く幕末洋式海軍の姿 今谷明
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日本の水軍の歴史は意外にも古い。「高句麗好太王碑文」には、倭(わ)軍が391年に大挙して朝鮮半島に攻め入ったことが記されている。また663年の白村江(はくすきのえ)の合戦では日本は大敗北を喫し、都が移されるなど、国内でも大変動に見舞われた。
金澤裕之著『幕府海軍 ペリー来航から五稜郭まで』(中公新書、902円)は、幕末の洋式海軍を中心テーマに、日本の水軍史の回顧も織り交ぜた興味深い啓蒙(けいもう)書である。
著者は現職の防衛大学校准教授で2等海佐であり、その道の専門家。評者のような素人から見ると教えられるところは大変多いが、以前から不思議だったのは、戦国期に西欧と接触していたのに、江戸時代以降の日本の船舶の技術が低いことだ。日本は海に囲まれた地形なのに、日本の帆船は1枚の帆だけで、風に弱く遭難を繰り返していたからである。
本書によれば、幕末海軍はオランダの全面的な指導により、長崎における「海軍伝習」から始まった。そこで著者が強調するのは、幕府は当初、技術のみを導入しようと図るけれども、それでは「蒸気船を動かせず」、結局、人事・組織の近代化を遂行せざるを得なかったという点である。家格・…
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週刊エコノミスト
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