教育を変える生成AI 人間固有分野の能力開発へシフト 柏村祐
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「チャットGPT」をはじめとする生成AI(人工知能)は、教育現場に大きな変化をもたらすとみられる。革新的な技術をどのように取り入れればいいのか。
教員の創造力、共感力、倫理的判断力の向上が必須に
対話型人工知能(AI)「チャットGPT」をはじめとする生成AIが世界的に注目を集めている。急速な普及の背景として、その手軽さが挙げられる。生成AIは人工知能の一つで、新しい情報やコンテンツを生成する能力をもつ。
この類いのAIは、大量のデータセット(データの集合)を学習し、そのパターンを理解して新しいデータを生成することができる。学習データとしては、テキスト、画像、音楽、動画といったさまざまなメディアが含まれる。かつて生成AI技術の利用には高度な知識や専門スキルが必要であったが、技術の進歩により、多くの人々がその恩恵を受けることができる。
現在、生成AIはスマートフォンやタブレットなどのデバイスに組み込まれ、容易に利用可能である。たとえば、音声認識技術を用いたスマートアシスタント(対話形式で質問に回答したり、指示内容を実行したりしてくれるアプリ)は、スマートフォンやタブレットから手軽に操作でき、多くの人が日常生活で活用している。また、インターネット上では無数の無料または低価格の生成AIツールが提供されている。これらを利用すれば、特別な技術や知識がなくても誰もが容易にAIを活用し、問題解決や創造的作業を行える。
授業準備の時間を短縮
このような生成AIの普及は、教育分野にも大きな影響を与える可能性がある。たとえば、生成AIを活用することで、教員は授業準備や評価にかかる時間を短縮し、学生との個別指導や他の重要な業務に集中できるだろう。さらに、生成AIツールを使えば、学生自身が特別な技術や知識がなくても創造的な作業を行える。これにより、新しいアイデアやプロジェクトを生み出す力が育まれ、学生たちが将来のイノベーターとして成長する可能性がある。
生成AIは、学生が日常的に学習する数学や英語、プログラミングといった基本的な問題から、司法試験のような国家資格試験に出題される高度な問題まで、各種の問題を解析し、解答する能力を保有している。以下、数学や英語に関する問題、プログラミングに関する問題、高度な専門知識を必要とする問題という三つの事例を用いて、生成AIの能力を詳しく見ていく。
初めに、数学や英語に関する問題への解答能力を検証するため、中学生レベルの数学問題を生成AIに解かせてみた。「辺の長さが3センチの正方形の対角線の長さを求めよ」という問題を提示したところ、生成AIは「ピタゴラスの定理」を用いることを説明し、正解である「約4.24センチ」という解答を出力した(図1)。
また、中学生レベルの英語の問題として、文を完成させるための選択問題の解答を求めた際にも、生成AIは正解となる選択肢を選んだ。
次に、生成AIが保有するプログラミングへの解答能力について見ていく。その能力は、プログラム生成・プログラム解説生成・プログラム問題生成に大別される。以下で、それぞれの生成能力について具体的な事例を挙げながら説明していく。
プログラム生成とは、ヒトが使う「自然言語」で記述された文章からプログラムのコードを生成する能力である。これにより、学習者は実際のプログラム例を参考に理解を深められる。「(プログラム言語の)パイソンでジャンケンゲームを作成してください」という要件を提示したところ、生成AIは直ちにパイソンで動作するジャンケンゲームのプログラムを生成した(図2)。パイソンは、オープンソースの高水準プログラミング言語であり、広く使用されている。
プログラミングも対応
プログラム解説生成について見てみると、生成AIはコードの解説文を自動生成する能力をもつ。これにより、学習者はコードの機能や目的を理解しやすくなり、効率的な学習が可能となる。プログラミング言語の初学者は一番初めに画面に「Hello, World!(ハローワールド)」と表示するプログラムを作成するのが通例だが、パイソンのこのプログラムを生成AIに読み込ませ、「何を意味しているか解説してください」と質問したところ、生成AIは、初心者でも理解できるレベルの内容を順序立てて解説した(図3)。
最後に、プログラム問題生成について見てみる。生成AIは学習者の状況に応じた適切な指導を提供する能力をもつ。「中学生向けのプログラミング問題を二つ作成してください」と要請したところ、生成AIは即座に二つのプログラミング問題を生成した。
さらに、司法試験をはじめとする高度な専門知識を必要とする問題に対する生成AIの能力を検証する。最新の生成AIモデルである「GPT-4」は、文章や数式だけでなく、図表や画像の読解や解析も可能とする…
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週刊エコノミスト
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