スポーツとサイエンスの関係性 成塚拓真
有料記事
ルールが生み出すスポーツの「面白さ」と「複雑さ」を理解すれば、スポーツとサイエンスの関係性が分かる。
そもそもスポーツとは何か
スポーツという言葉からサッカーやマラソンを自然に連想するように、我々はある特定の活動をスポーツと呼んでいる。これまでに多くの学者がスポーツを定義しようと試みてきたが、スポーツに共通する要素としてよく挙げられるのは、「遊び」「競争」「身体活動」の三つである(例えば、国際機関の国際スポーツ体育評議会が1968年に発表した「スポーツ宣言」)。このうち遊びには、ルールが決まっており、結果が未確定で、参加者が自発的に行う活動という意味合いがある。
スポーツが持つこれらの要素の中で、各競技の具体的な内容を決めるのは「ルール」の存在だ。体育学者の守能信次氏は著書『スポーツルールの論理』(大修館書店、2007年)で、ルールにはスポーツに一定の秩序を打ち立て、公平性を担保する機能があるが、その本質はスポーツに面白さを保証すること、といった内容を述べている。
例えば、サッカーのルールは、90分という制限時間内に、長さ105メートル、幅68メートルのフィールド内で、足だけを使ってボールを相手ゴールまで運ぶというのが基本構造であるが、なぜこのようなルールになっているかと問われると、「サッカーを面白くするため」という以外に答えようがないのである。
このように考えると、スポーツのルールは面白さを求めて常に変化していくのが自然ということになる。実際、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールはいずれも多人数で行う球技であるが、これらは元々イングランドで行われていたフットボールのルールから派生してできた競技である。
また、マラソンの厚底シューズや競泳の高速水着などのように、公平性という観点から短期間で使用禁止のルールが制定された例もある。今後は義足の使用やトランスジェンダーの選手が女性としてプレーすることをどこまで認めるかといった課題も、スポーツルールの変更や適用に関して重要な議論となることが予想される。
以上のような特性を持つスポーツは、サイエンスとの親和性も高い。そして、これらを結びつけているのもまたルールであり、以下の2点が重要だ。
科学実験と似ている
1点目は、スポーツにおけるルールの存在は、異なる時間・場所で行われた試合の同一視を可能にする。この点は、統一の条件下で繰り返し行われる科学実験に似ており、スポーツでも客観的な視点から試合を観察することで、再現性のある結果が抽出できる可能性を示唆する。
2点目は、全てのプレーヤーが同一のルールに従うとはいえ、その枠組みの中で自由なプレーが認められているため、それぞれの試合内容は微妙に異なる。このようなプレーの自由度は、どのようにして勝つか、いかにうまくプレーするか、という戦略性を生み出し、それは科学的な手法でスポーツを解き明かす動機につながっている。
一方、スポーツをサイエンスの対象として理解するには、その競技の詳細なデータを取得するとともに、データ分析のための数学的な手法を開発する必要がある。そして、その際…
残り1596文字(全文2896文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める