EUは送電会社の独立を厳しい規制で確保している 杉本康太
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欧州では送電会社の独立性を確保するため、法的分離に付随し、さまざまな行為規制を課している。
日欧の「行為規制」に大きな差異
大手電力会社が送配電会社の所有する新電力の顧客情報を不正に閲覧していた問題は、日本の発送電分離(法的分離)が不十分であることを示した。その結果、新規参加者(新電力)は不利な競争を強いられていたことになる。そこで本稿では、欧州と日本の法的分離の差異を明らかにすることで、今後の改善の方向性を示したい。
EU(欧州連合)が2009年に制定した第3次欧州指令では、所有分離や機能分離の代わりに法的分離を選択した送電会社は、独立送電運用者(ITO)と呼ばれ、多くの行為規制に従わなければならなくなった。電力会社が送電系統の運用を行う送電会社を子会社として所有し続けることができ、送電会社の独立性が確保できないためである。以下では第3次指令のITOに対する行為規制についての記載がある17条から23条に基づいて、日本との主要な違いを四つにまとめたい。
人事・財務の独立を徹底
第一に、ITOの経営や送電系統の運用に携わる者は、ITOに雇用されなければならない。日本では送配電会社の社員は、まず親会社に採用されてから、送配電会社に配属される。この場合、グループ会社(持ち株会社または発電・小売電力会社)の一員だという仲間意識が育まれてしまう可能性が高い。
規制機関に強力な権限
第二に、欧州では日本と比較にならないくらい、規制機関(例:独連邦ネットワーク庁)に強い権限がある。グループ会社の社員がITOへ出向することは、規制機関の許可がない限り禁じられている。ITOとグループ会社との全ての商業上・財務上の取引(例:貸し付け)は、通常の取引条件に従わなければならないだけではなく、規制機関の要請に応じて開示しなければならない。更に、口頭または書面による正式な合意を生じさせるITOとグループ会社の全ての商業上・財務上の取引は、規制機関の承認を得なければならない。日本の規制機関(電力・ガス取引監視等委員会)には、このような権限は与えられていない。
さらに、ITOがやむを得ない理由を除いて送電投資を実施しなかった場合、規制機関は①ITOに対し当該投資の実行を要求する、②全投資家に開かれた入札手続きを組織する、③必要な投資を行うための増資を受け入れ、独立投資家が資本に参加できるようにする──の少なくとも一つをITOに義務づける権限を持つ。これはITOがグループ会社を有利にするために戦略的に送電網への投資を抑制することを防止するためのルールであり、日本の規制機関にはない権限である。
規制機関には他にも強力な権限が与えられている。例えばグループ会社に有利な差別的行為を行った場合、グループ会社またはITOの年間売上高の10%を上限とする罰則を適用する権限や、抜き打ちを含む検査を実施する権限、そしてITOが何度も規制に違反した場合、特にグループ会社の利益のために差別的行為を繰り返した場合、ITOの業務の全てまたは特定のものを、電力会社から独立した送電系統運用者(ISO)に移管させることが…
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週刊エコノミスト
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