検証求められる農地の集積・集約 小林航
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農地の集約化を目指してきた政府。4月から始めた新たな取り組みについて分析、検証する。
市町村に農業の「地域計画」と「目標地図」作成を義務付け
今年4月から、農業の生産性向上に向けた新たな取り組みが開始された。改正農業経営基盤強化促進法の施行に伴い、市町村が「地域計画」と「目標地図」を作成することになったのである。
地域計画とは、その地域における農業の将来のあり方について関係者で協議し、その結果を踏まえて目指すべき農地利用の姿を明確化するものである。目標地図はその姿を地図化したものである。
農林水産省の公表資料には、「農業委員会は、農地の集約化等を図る観点から、目標地図の素案を作成」と書かれており、「農地の集約化」に主眼が置かれている。「食料・農業・農村白書」(2022年度)によれば、農地の集約化とは、農地の利用権を交換することなどにより、農地の分散を解消することで農作業を連続的に支障なく行えるようにすることを指す。
例えば、A氏が所有する農地の隣にB氏の農地があり、さらにその隣にA氏の農地がある場合、A氏の農地は分散しているため、農作業を連続的に行うことができない。ここでA氏とB氏が農地の利用権を交換すれば、A氏が所有する農地の分散状態は解消される。
また、B氏が高齢で、なおかつ後継者がいないとしよう。このとき、農地の利用権を将来的に誰かに委ねたいという意向がB氏にあり、それを引き受けてもよいという意向がA氏にあれば、A氏がB氏の農地を借り入れることにより農地の集約化が実現する。
また、この場合、A氏が利用する農地の面積自体が拡大することとなるが、同白書によれば、それは「農地の集積」に相当する。つまり、特定の農業者が利用する農地面積の拡大が農地の集積であり、この例では農地の集積と集約化が同時に実現することになる。
このような、農地の出し手(B氏)と受け手(A氏)の意向を把握し、将来的にA氏がB氏の農地を利用するという状況を、目指すべき姿としてデジタル地図に表現したものが目標地図である。
政府の目標は「8割」
13年6月、政府は「日本再興戦略」を閣議決定した。アベノミクス第三の矢、「民間投資を喚起する成長戦略」の具体的な姿を描いたものである。そこでは、「今後10年間の平均で名目GDP(国内総生産)成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度の成長を実現することを目指す」としたうえで、個別の政策群ごとに達成すべき成果目標(KPI)を定めている。
その中の一つに、「農林水産業を成長産業にする」という項目の中にある「今後10年間で、全農地面積の8割が、『担い手』によって利用され」るというものがある。これは、「担い手」となる農業者に全農地の8割を集積させるという数値目標であり、「担い手への農地集積率」は当時約5割であった。
この担い手とは、再興戦略では「法人経営、大規模家族経営、集落営農、企業等の担い手」とされており、近年の白書などでは、「認定農業者、認定新規就農者、基本構想水準到達者、集落営農経営」をその対象としている。認定農業者とは、農業経営基盤強化促進法に基づき、…
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週刊エコノミスト
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