古寺で金融研究 京都ラボの挑戦 山田俊皓
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欧米では、ロンドンやニューヨークといった金融街に拠点を持たない資産運用会社が多い。京都の古寺から金融研究の情報を発信する「京都ラボ」が目指すものは?
情報やノイズ遮断し投資家育成
京都・東山の閑静な住宅街の一角に、旧臨済宗明道寺をリノベーションした「京都ラボ」という施設がある。世界トップレベルの資産運用研究と投資家育成を目指して、ヘッジファンドのGCIグループが設立した一般社団法人だ。筆者は大学で金融の数学の研究に携わる傍ら、京都ラボに上席研究員として参画している。ここでは京都ラボの取り組みから見る資産運用と、金融研究教育の最前線に触れてみたい。
資産運用の仕事は、銀行や証券会社、保険会社など他の金融機関のサービスとは性格が異なるといえるかもしれない。資産運用には、おのおのが目的を達成するために独自の投資哲学を持ち、じっくり投資方法を作り上げていく側面がある。他と異なる投資哲学に基づき長期的な視点で投資を行うには、ブレることのない投資方法を追求することが重要となる。
さまざまな情報に一喜一憂し、右往左往させられる環境で投資を行い、結果的に運用方針に悪影響を及ぼすようでは、他と差別化を図ることができず運用成果を上げることができない。お金の運用に向き合い、投資の哲学と方法を洗練させるには、時間をかけて長期投資を研究する必要がある。
欧米は金融街から距離
京都ラボ代表であるGCIアセット・マネジメントの山内英貴社長は「都会の喧騒(けんそう)から離れて、深い思考と洞察が可能な静かな環境で金融の研究教育を行うために、日本の古都に独自の金融研究教育拠点として京都ラボを設立した」と語る。京都の古寺をリフォームして設立したことに周囲の人は驚いたようだが、欧米の資産運用会社の中には、ニューヨークやロンドンに拠点を持たない場合が多い。
米国では資産運用残高上位100社のうち約4分の3がニューヨーク以外に立地しており、英国でも上位30社中、10社はロンドン以外にある。銀行などではあまり見られない資産運用会社特有の現象だが、一貫した長期投資を行うために金融中心街から一定の距離を置き、情報やノイズを除去する目的があるためだ。
山内代表によれば、京都という場所を選んだことにも理由があるようだ。京都は日本の歴史・伝統の象徴であると同時に大学など高等教育機関が集中する学術都市でもある。例えば、京都ラボでは静かな寺で金融の研究と教育を行う傍ら、京都大学と提携し共同研究など新しい取り組みを進めている。
京都ラボの研究と教育は、伝統的な経済学・金融論の分野にとどまらない。資産運用にAI(人工知能)・ビッグデータの技術を積極的に取り入れるためにデータサイエンス・情報学・計算機科学・応用数学などの基礎研究も柔軟に進めている。有力な研究成果が出た場合、試験的なパイロット運用を経てファンド運用実務に活用する道も開かれており、実際にそのルートを経て資産運用現場で活躍しているファンドマネジャーもいる。
京都ラボのもう一つの重要な取り組みとして、わが国の資産運用の高度化に貢献すべく、一般社団法人という中立的…
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週刊エコノミスト
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