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ESGは企業価値にプラスなのか キーリー・アレクサンダー竜太

 ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、企業のパフォーマンスにどれだけプラスに働くのだろうか。論文や市場データの評価から検証した。

短期的収益性への貢献は不明 中長期的業績にはプラス

 ESG(環境・社会・ガバナンス)への社会的な関心の高まりに伴い、企業がESGに取り組むことの重要性が増している。

 世界のESG投資を集計している「世界持続可能投資連合(GSIA)」の報告によると、2020年の世界のESG投資総額は35.3兆ドル(約5000兆円)に達し、16年から55%も増加した。企業がESGに積極的に取り組むことは、ビジネス上のリスクを軽減して競争優位性を得ることができ、投資家の獲得、企業運営の持続可能性といったメリットにつながると考えられている。このことが、企業、投資家、双方のESGへの意識を高めていると思われる。

 しかし、ESGへの取り組みが企業のパフォーマンスにどれだけプラスに働くかという相関関係は、以前から議論されているものの、いまだはっきりとした結論は得られていない。

 そこで筆者らは、信頼性の高いESGに関する論文を収集し、そこからESGと企業パフォーマンスにどのような関係があるのかを検証する研究を国際ジャーナルに発表した。その論文をもとに本稿で解説する。

 世界最大級の学術論文の抄録・引用文献データベース「Scopus(スコーパス)」などからファイナンス分野のトップランクのジャーナルに掲載された1293件のESGに関する論文を選び、そこから今回の調査の対象となり得るテーマの研究論文を手作業でスクリーニングした結果、最終的なサンプルは80論文となった。

 各論文では、企業ごとのESGへの取り組みを評価する基準として、マーケット分野における次の代表的な機関「MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)」「リフィニティブ」「アラベスクS-Ray(現・ESGブック)」「ブルームバーグ」などが示す「ESG指標」を用いている

 これらのESG指標を用いて、各企業のESGファクターが企業価値にどのように影響を及ぼすのかを研究した80の論文を検証した結果を以下に示す。

 まず、短期的な影響については総論としてESG要因が企業価値にプラスに働く傾向が見られるものの、ROA(総資産利益率)、ROE(株主資本利益率)は使用するESG指標や論文ごとにプラスからマイナスまで異なる結果が示されており、株式リターンについても用いるESG指標によって傾向が一定ではない。

 よって、現段階ではESG要因が企業の短期的な収益性にプラスに働くと断言することは困難である。ただ、影響が無い、またはマイナスに働くという結果よりも、プラスに働くという結果が多いという傾向は確認された。

 次に、中長期的な影響を検証するために、企業が設備投資を行うかどうかを決定する際の指標として用いられる投資理論「トービンのQ」(企業の市場価値を資本の再取得価格で割ったもの)に着目した。すると、ESG指標の種類を問わず、圧倒的にポジティブな結果が表れており、ESG要因が中長期的な企業業績に対し…

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