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スポーツのランダム性に潜む法則について 成塚拓真

スポーツのランダム性には普遍性が隠れている。写真は横浜アリーナで5月にあったBリーグファイナル第2戦の琉球-千葉J
スポーツのランダム性には普遍性が隠れている。写真は横浜アリーナで5月にあったBリーグファイナル第2戦の琉球-千葉J

 サッカーの得点分布を解析すると、「店への来客数」「放射性元素の崩壊数」と共通の法則があると分かる。

「統計法則」が選手を支配する

 スポーツにおいて、選手の驚異的な身体能力や高度なスキルはそれだけで人々を魅了する。しかし、いくらたくみなプレーでも、初めから結果が予想できてしまっては、熱狂は生まれない。スポーツが人々を魅了するとき、そこには必ずプレーのランダム性が介在している。

 プレーのランダム性は勝敗の予測不可能性や番狂わせに結びつき、必然的にスポーツにギャンブル性をもたらす。実際、スポーツは古くから賭けの対象とされており、近年ではスポーツベッティングとして一大市場を築いている。日本では合法化に向けて今も慎重な議論が続いているが、一部の競技ではスポーツ振興くじや公営競技という形で生活に浸透しているのが現状だ。

 一方、スポーツのランダム性がもたらすのは人々の熱狂や興奮だけではない。実は、その背後には思いがけない法則や普遍性が隠れている。以下では身近な競技から二つの実例を紹介しよう。

バスケの得点変動

 バスケットボールは対戦型競技の中で最も得点頻度の高い競技である。1試合のシュート成功数は両チーム合わせて平均100回に上り、大体30秒に1回はシュートが決まっている。このような特徴は、24秒以内にシュートしなければならないという独自のルールによるところが大きい。

 図1は、米プロバスケットボールNBAで行われた20試合の得点差の推移を示したグラフである。真ん中の点線より上はホームチームのリード、下はアウェーチームのリードを表している。48分間の試合中、非常に不規則な変化をたどっており、一見すると株価の変動とも見分けがつかない。このような不規則な時系列は確率論の分野で「ランダムウォーク」と呼ばれているが、実はバスケットボールの得点差もこの性質を備えている。

 さて、ここで面白い性質を紹介しよう。今、バスケットボールの試合データをたくさん集めたとき、1試合の中でホームチームがリードしている時間(図1の点線より上の領域)は大体どのくらいになるだろうか。図1のように得点差が不規則に変動することを考えると、ホームチームが半分くらいの時間をリードしている試合が多いのではないだろうか。実は、この予想は正しくない。図2はNBAの約6000試合から、1試合の中でホームチームがリードしている時間を計算し、その分布を調べた結果である。予想とは異なり、試合中ホームチームがずっとリードしているか、アウェーチームにリードされている場合が多いことが分かる。

 以上のような性質は確率論の分野で「逆正弦分布」として知られており、ランダムウォークから導かれる帰結の一つである。実際、図中には逆正弦分布を当てはめた結果を点線で示しており、NBAのデータと非常によく一致している。逆正弦分布の出現は、一旦数点差のリードを許すと逆転するために同じだけの得点が必要と考えれば直感的に理解しやすい。つまり、一旦得点差が一方に偏ると、その偏りを試合の最後まで引きずってしまうのである。なお、逆正弦分布は公平な賭けにおける勝ち…

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