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教養・歴史 学者が斬る・視点争点

新規参入者を締め出す先着優先ルール 杉本康太

 日本卸電力取引所の前日市場で、既存事業者が優先的な地位を利用し、新規参入者を電力取引から締め出していた可能性が浮上している。

既存事業者が市場分断でサヤ取り

 日本では電力システムに競争原理を導入し、発電と小売り事業に参入が可能になった。しかし規制を緩和しただけでは、大半の電源を所有し、送配電網も所有・運用する既存の大手事業者(電力会社)が新規参入者より圧倒的に有利である。これを是正するため、政府は電力システム改革の一環として、競争を促進する政策を積極的に講じる必要があった。前回までは、発電・小売り事業にとってアクセスが不可欠な送電網の独立性を強化するための政策、発送電分離について解説してきた。今回からは、電力会社の間を結ぶ送電線(連系線)の利用ルールの改革について解説する。

 連系線には主に三つの機能がある。一つ目に、特定のエリアで需給が逼迫(ひっぱく)した際に、別のエリアから余力の電気を輸入することで、電力システムの需要と供給の一致を継続する機能だ。二つ目に、発電費用が低い電源から順に発電していくことで、電力システム全体の発電費用を最小化する機能だ。特定のエリアの需要を満たすために、同一エリア内の発電機より発電費用の安い発電機がエリア外にある場合、そちらに多めに発電してもらうことで、発電費用をトータルで安く抑えることができる。三つ目に、発電事業と小売り事業での公平な競争を実現する機能だ。この3点目を理解するためには、日本卸電力取引所(JEPX)の前日市場での取引の仕組みを理解する必要がある。

 いわゆる電気エネルギー(発電電力量)は、発電・小売り事業者間の内部取引や相対契約以外にも、JEPXで開設されているいくつかの市場でも売買することができる。それらの市場の中で最も大きな割合を占めているのが、実需給の前日に毎日開催されている前日市場である。以前はほとんど取引が行われていなかったが、この10年間でさまざまな取り組みが行われたこともあり、日本の電力需要の約4割を取引するまでになった。前日市場に参加する売り手(買い手)は、売りたい(買いたい)量と希望する販売(購入)価格、時間とエリアを指定して入札を行う。JEPXは、前日の10時に入札を締め切った後で、全ての入札を集計して売り入札曲線と買い入札曲線を形成し、その交点で日本全体の市場価格と約定量を決定する。これをシングルプライスオークションという。

連系線空き容量に制約

 ここで重要なのは、前日市場の取引は、連系線の空き容量に制約されるということだ。シングルプライスオークションの結果、連系線を流れることになる電気の方向と量を計算し、それが連系線の空き容量を超える場合、日本全体で同一の市場価格は形成されない。連系線を境に市場を分けて、部分的な市場ごとにオークションをやり直し、市場ごとに異なる価格と約定量が決定される。これを「市場分断」という。市場分断が起こると、輸出エリア側の発電事業者は発電費用が低くても約定されず、電力を販売できないことがある。その一方で、輸入エリア側の小売り事業者は、市場分断後の高い市場価格に直面す…

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