国際・政治学者が斬る・視点争点

果たして地方税は偏在しているのか? 小林航

山梨県北杜市で7月25日にあった全国知事会議で、地方税の偏在是正を含めた議論や提言を報告する河野俊嗣・宮崎県知事
山梨県北杜市で7月25日にあった全国知事会議で、地方税の偏在是正を含めた議論や提言を報告する河野俊嗣・宮崎県知事

 全国知事会議の議論が注目された地方税の偏在是正。真の問題はどこにあるのか。

財政力を測る適切な指標の開発こそ必要

 地方自治体間の財政力格差をどうするか。これは昔からある問題だが、誰もが納得する状況にはなかなか到達しない厄介な問題でもある。

 今年の全国知事会議で展開された議論もその一幕といえるだろう。会議の様子を伝えた『日本経済新聞』(7月27日朝刊)によれば、「都市部から地方への税収移転を巡る議論では地方の知事が軒並み賛同した」のに対して、東京都の小池百合子知事は、「地方交付税も含めれば都の人口1人当たりの一般財源は全国平均を下回る」とし、「指摘は誤りだと再三訴えた」という。

 小池都知事が誤りだと訴えた指摘とは何か。会議資料の中には、知事会が用意した「参考資料」に対して、東京都が独自の見解を主張するものがある。この中で東京都はまず、「参考資料」に掲載された税収の分布を示すグラフを再掲する。そこには都道府県ごとの人口1人当たり税収額が並べられており、東京都の税収が最も高いことが分かる。次に一般財源の分布を示すグラフを載せ、「全国平均>東京都」と表示し、「是正すべき偏在はなく、むしろ逆偏在の状況が生じている」との見解を記載している。

 一般財源の額は地方税収と地方交付税の合計におおむね等しい。地方交付税は、地方自治体間の財政力格差を是正するために、国が自治体に交付する補助金である。つまり、地方交付税が交付される前の税収だけで比較すれば、確かに東京都の数値は大きいが、だからといってその是正が必要であるとの指摘は間違っている。地方交付税が交付された後の財源で比較すれば、東京都は既に全国平均を下回っているのだから、というのが東京都の主張であろう。

政府・与党「偏在是正必要」

 それでは、誰がその指摘をしているのか。「参考資料」には、昨年12月に策定された与党の「税制改正大綱」や、今年5月に公表された財政制度等審議会の文書において、「偏在性が小さい地方税体系」の構築が必要であると記載され、さらに6月に閣議決定された通称「骨太の方針2023」において、そのような地方税体系の「構築に向けて取り組む」と宣言していることも示されている。つまり、政府と与党はともに地方税の偏在是正が必要であると主張し、多くの知事がそれに賛同する中、東京都知事だけが抵抗しているという状況である。

 多勢に無勢であるが、理はどちらにあるのだろうか。最新の決算統計である21年度決算のデータを参照しながら整理してみよう。

 まず、各都道府県の地方税の偏在性について確認する。東京都の21年度の税収は5.87兆円であるが、これは特別区で都税として徴収する固定資産税などを含んだものであり、これを除いた東京都の地方税収入は3.55兆円である。

 さらに、通常はこれを人口で割り、1人当たりの金額として比較する。人口が多ければその分だけ財政支出の必要性、すなわち財政需要も多くなるのだから、それを考慮して比較すべき、ということである。そこで、住民基本台帳登載人口を用いて人口1人当たりの金額を計算すると、東京都の地方税収は25.8万円となる。これは都道府県の中で最大であり、最小である沖縄県(11.8万円)の2.18倍である。

 これを税目別にみると、法人事業税や法人住民税といった法人関連の税目でその数値が高いことから、これまで…

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週刊エコノミスト

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