「商経法社」の一橋大がデータサイエンス教育を始めた意義 山田俊皓
有料記事
AIやビッグデータを学ぶ「データサイエンス学部」を新設する動きが、各大学で広がっている。
「検索」より仕組みの理解重要
2025年に創立150周年を迎える一橋大学は今年、「ソーシャル・データサイエンス学部」を創設した。戦後、旧東京商科大学から一橋大学と名を変え、「商経法社」(商学部・経済学部・法学部・社会学部)の4学部体制としてから約70年ぶりに新学部を設置したことになる。カタカナの学部名であることが時代を象徴しているといえるだろう。創設の経緯と、昨今の人工知能(AI)・データ解析技術の進歩から見る、社会科学におけるデータサイエンス教育について考えてみたい。
「統計学部」がない日本
海外の大学では「Department of Statistics」(統計学部)が当たり前に存在する一方で、日本の大学にはその名の学部はなかったということを聞くと意外に思う方もいるかもしれない。統計学の重要性を踏まえると、あってしかるべきだという考えもあるだろう。
竹内啓・東大名誉教授編集の『統計学の未来』(1976年)によると、米国では第二次世界大戦中の統計学ブームで統計学部がたくさん設立されたという。一方、日本では統計学部の善しあしについて論争があったらしく、統計学に対する日米の認識の違いが垣間見える。日本の大学での統計学の教育は、数学・統計学関連の教員が数理・データ解析に関わる学部での教育の一環で、統計学の基礎や理論・応用を教える、という形だ。
例えば、私は一橋大学経済学部の経済統計部門に所属し、金融工学・数理ファイナンスと確率統計に関わる教育を行っている。こうしたスタイルの統計学の教育は、各学部の学問体系の中で統計理論を把握し、どのように統計解析を応用するかを学ぶ上では大変なメリットがあるが、統計学そのものを専門として学位を取る際や、分野を超えた応用などを理解し研究する際には多少とも障壁となっている側面もあるかもしれない。
特にAIやビッグデータの重要性が増している近年、それらの分野を専門として育成する学部や研究科があっていいとも思うが、日本にはなかった。データサイエンティストが日本に少ないといわれる理由の一つはここにある。
こうした背景の下、17年に日本で初めて「データサイエンス学部」が滋賀大で創設され、その後もさまざまな大学にデータサイエンスに特化した学部が設置された。一橋大学にソーシャル・データサイエンス学部・研究科が創設されたのは、指定国立大学法人に指定されたことの直接的な影響もあるが、AIの技術進歩に伴い統計学・データサイエンスを重点的に教育することの重要性が大いに高まっていること、とりわけ社会科学においてデータ解析の高度化が必須であることを考えれば、必然の流れといえるだろう。
ソーシャル・データサイエンスとは社会科学全般とデータサイエンスの融合を一言で表した単語であり、それを冠するソーシャル・データサイエンス学部・研究科には、社会科学とデータサイエンスの双方を同時に学習し活用する経験を積むことで現実社会に対するさまざまな課題に対して、実践的な解決策を提示することを目指してほしいという思いが込められている。それでは具体的に何を対象とし、どのような特徴があるのだろうか。
一橋大学の初代ソーシャル・データサイエンス学部長・研究科長の渡部敏明教授は「AIや機械学習…
残り1695文字(全文3095文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める