教養・歴史学者が斬る・視点争点

“そのESG投資は本物か”を数値で示す キーリー・アレクサンダー竜太

 ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、企業のパフォーマンスにどれだけプラスに働くのだろうか。論文や市場データの評価から検証した。

間接投資先も含めたデータを検証

 企業がESG(環境・社会・ガバナンス)に取り組むことは、もはや必須といえる時代になっている。ESG経営の推進が企業運営の持続可能性に寄与するのみならず、新たな投資家の獲得に直結することは、投資プロセスにESGの問題を組み込む責任投資への関心が高まっていることからも見てとれる。国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment=PRI)ネットワークの目覚ましい成長は、その顕著な事例といえる。

 PRIでは投資の意思を決定するプロセスや株主の行動に際し、ESG課題の考慮が必要であるとする六つの投資原則が示されている。2021年時点で、60カ国、4000以上の機関(金融機関、企業、公的機関など)がPRIの原則に賛同し、これら機関が保有する資産総額は120兆ドルを上回る。

ジュネーブ大の研究者等

 このように、金融市場におけるPRI署名機関の存在感が高まっているにもかかわらず、PRI署名機関がESG原則を順守しているかを示す学術的な証拠は限られていた。ジュネーブ大学の研究者、ギブソン・ブランドン等による論文『Responsible Institutional Investing Around the World』(2021年)は、PRIへの署名が機関のポートフォリオに及ぼす影響を検証した注目すべき研究といえる。

 この論文では、ポートフォリオデータ、市場価格データに加えて、主要ESG格付け機関によるESGスコア(ESGへの取り組みを評価する基準として一般的な指標)を用いて「ポートフォリオESGフットプリント(足跡・記録)」というスコアを算出。PRI署名機関がどの程度ESG投資を追求しているかの定量化を試みた。この指標が高ければ、その機関は戦略的、運用的双方の目的における投資において、ESG投資の度合いが高いことを示している。

 同論文では、総論としてPRI署名機関は、非署名機関よりも平均的にポートフォリオESGフットプリントが高いことが実証されたとする。だが一方で、アメリカを拠点とするPRI署名機関は、PRI非署名の米国機関よりもESGフットプリントの数値が優れていない傾向があることを示した。

 その理由として、環境に配慮した活動を自社のPRに利用して、活動に実態が伴わないことを問題視されている“グリーンウオッシュ”に類似する傾向が、アメリカではPRIへの署名にも見られるのではないかと考察している。

 この研究はポートフォリオESGフットプリントを可視化し、PRIへの署名とESG投資の相関関係を明らかにしている点で非常に重要な研究だが、ポートフォリオESGフットプリントの算出において、直接投資先しか対象としていないことに疑問点がある。ESGを適切に評価するためには、直接投資先のみならず、その先に続くサプライチェーン全体を追っていくことが重要となるからだ。そこで我々はブランドン等の研究を発展させた分析を行い、国際ジャーナルに発表した。以下は、その研究及び追加分析によって明らかになったものである。

 まず、我々はブランドン等の研究と同様の方法を用いて、グローバルな上場…

残り1549文字(全文2949文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事