教養・歴史学者が斬る・視点争点

SDGsへの貢献が期待される「グリーンボンド」とは キーリー・アレクサンダー竜太

 持続可能な開発目標(SDGs)に役立てるための資金調達手段「グリーンボンド」が拡大している。ただ、お金の使い道が偏っているという指摘もある。

自然資本増加のためにお金を使う

 2007年から発行が始まった「グリーンボンド」は、地球の持続可能性を向上させる投資手法として大きく期待されている。なぜなら、温室効果ガスの削減や自然資本の劣化防止など環境問題の解決に貢献する投資を高く評価する投資家へアピールする力が強いからである。

 環境改善事業を行おうとする自治体や民間企業などが発行体となって債券を発行し、資金調達するための有効な手段として、グリーンボンド市場は発行以来拡大を続けてきた。19年には世界全体で発行額が2580億ドル(当時のレートで約27.6兆円)を超えている。国際資本市場協会(ICMA)が18年に出した『グリーンボンド原則(GBP)』では、「再生可能エネルギー」「汚染防止及び抑制」「生物自然資源及び土地利用に係る環境持続型管理」「気候変動への適応」など10項目にわたる対象の事業区分が定められた。

使い道が偏重

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のリポートでも引用されている、筆者らが行ったグリーンボンド発行体の調査では、グリーンボンドが、SDGsにかかわるプロジェクトの資金調達を大きく支えていることがわかる(図)。

 08年から18年にかけて、53の国際開発金融機関、大手企業、政府機関等のグリーンボンド発行体が、約580億ドル(同約6.2兆円)の資金を再生可能エネルギー、エネルギー効率向上、クリーン輸送、持続可能な水資源及び排水管理、グリーンビルディング等のプロジェクトに充てている。

 グリーンボンド市場が拡大し、SDGs達成を後押ししている一方で、グリーンボンドによる調達資金のほとんどは、SDGs目標の「7(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)」と「11(住み続けられるまちづくりを)」といった産業的な資金を必要とする事業に充てられていることは注視すべきだ。もっと幅広いSDGsへの貢献が必要だろう。

 そのような中で、世界には途上国でもSDGsの目標「6(安全な水とトイレを世界中に)」や他のSDGsに対して積極的にグリーンボンドを活用している企業もある。

 例えば、ブラジルの食品会社BRFは、持続可能な水資源及び排水管理、生物自然資源及び土地利用に関する環境持続型管理、そしてエネルギー効率及び再生可能エネルギー資産に計800万ドル以上の資金をグリーンボンドを通じて充てている。

 その結果、これまでに二酸化炭素(CO₂)で7545トン分の温室効果ガス排出削減、約35万平方キロの森林の持続可能な管理、約334万立方メートルの水消費削減、2769万立方メートルの水のリサイクル、2万8000トンの廃棄物削減、255トンの梱包材削減、25%の大豆ミール消費削減の達成を報告している。

 発行体がプロジェクトを選定する過程では、環境面での持続可能性や、潜在的な環境的・社会的リスク等を投資家に明確に報告する原則がある。また、専門性を有するコンサルタントや機関からもプロジェクト…

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