投資・運用

円預金の実質目減りは海外への“資本逃避”を招いたか? 河野龍太郎

昨年10月、一時1ドル=150円台まで円安が進んだ
昨年10月、一時1ドル=150円台まで円安が進んだ

 ドル高・円安が招くのはインフレだけではない。円預金が外貨預金・保険へ移行し、「資本逃避」につながる可能性がある。

>>特集「円安インフレ襲来」はこちら

 今年1月に、生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)が前年比4.2%まで上昇した理由の一つは、輸入物価が大幅上昇したことだ。ウクライナ戦争による資源高も影響したが、大幅円安が進み、昨年10月には一時1ドル=150円台まで加速したことが輸入物価急上昇の主因である。

 その超円安の背景には、内外金利差の急拡大がある。2021年に始まったグローバルインフレに対し、22年から米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ、先進各国の中央銀行が大幅利上げを続ける中、日本銀行は異次元緩和を維持し、10年国債金利をゼロ%近傍に抑え込んでいる。

 それにしても22年の超円安は、内外金利差では説明できないほどの大きなものだったという見方も少なくない。22年2月末に1ドル=115円前後だったドル・円レートは、わずか8カ月足らずで、30%もドル高・円安が進んだ。

「新冷戦」がきっかけに

 ただ、今年3月に米銀破綻が生じた際も、1ドル=130円を若干割り込む程度の小幅な円高にとどまった。かつてであれば、大幅円安と見なされていた水準だ。どうやら為替市場には、近年、大きな構造変化が生じ、為替の均衡レートが円安方向に大きくジャンプした可能性がある。

 まず、為替レートを考える上で、重要な基本概念を説明しよう。ドル・円の「実質為替レート」とは、日米の物価の変化を加味した、実質的なドル・円為替レートのことだ。次に「実質均衡為替レート」とは、日米の実質金利差がゼロの時の実質為替レートの水準だ。内外実質金利差ゼロに対応する実質均衡為替レートを起点に、理論上、内外実質金利差が拡大すれば実質円安が進み、縮小すれば実質円高が進む。

 図は、経済学者の齊藤誠氏が作成したチャートを基に、「日米の実質長期金利差(10年)」と、ドル・円の実質為替レート(自然対数)」の関係を描いたものだ。日米の実質長期金利差が実質為替レートの動きを規定していることを示す。

 まず、下方の回帰式は08~18年の関係を示す。ゼロインフレ、ゼロ金利の下、日本の実質金利はほとんど動いていないから、米国で利上げが進むと、実質金利差が拡大し、実質ベースでドル高・円安が進んだ。逆に米国で利下げが進むと、実質金利差が縮小し、実質ドル安・円高が進んだ。

 しかし、19~22年初頭にかけ、実質金利差と実質為替レートは、08~18年の回帰式から大きく乖離(かいり)した。実質長期金利差が縮小しても、実質円高はほとんど進まなかった。その後、FRBが22年3月から急激な利上げを開始し、実質長期金利差が急拡大を始めると、新たな回帰式に沿って、22年秋まで急激な実質円安が進んだ。

 実質金利差ゼロに対応する実質均衡為替レートは30%…

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週刊エコノミスト

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