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教養・歴史 書評

「性的惹かれ」のない人々を可視化、理論的に深く分析・考察 荻上チキ

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「LGBT理解増進法」が国会を通過した。想定より時間がかかり、内容は当初案から書き換えられた。何よりこの議論の最中にあって、「性的マイノリティー」はマジョリティーを脅かす存在であるかのように語られ続け、敵対心が刺激されてもいた。

 同法の正式名称は、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」である。この法案の中では、具体的な性的指向が限定されてはいない。となると、疑問が湧く。この法案は、どのような当事者まで、含みうるものなのだろうかと。

 この日記でも、『見えない性的指向アセクシュアルのすべて』『最小の結婚 結婚をめぐる法と道徳』『トランスジェンダー問題 議論は正義のために』などを紹介してきたように、性について記述された、豊かで優れた著作が、確実に世に出されてきている。これらの書籍が描き出すように、恋愛や性愛は、現在の制度が想定しているより多種多様である。

『ACE アセクシュアルから見たセックスと社会のこと』(アンジェラ・チェン著、羽生有希訳、左右社、2750円)では、多くのアセクシュアル当事者らにインタビューが行われ、それぞれの生活や葛藤が、カジュアルなエッセー調で、しかし深みある理論的分析と共に記録される。

 アセクシュアルとは、他者に対する「性的な惹(ひ)かれ」を経験しないことを指す言葉である。そしてエース(ACE)は、アセクシュアルの当事者のことを指す言葉である。

「アセクシュアルではない人」にとっても、「性的惹かれ」だけでなく、「誰かとしたい」といったような「性欲動」も、実際の「身体的興奮」や「性行動」も、はては「美的惹かれ」「恋愛的惹かれ」も、人によって大きな差異がある。こうした個人差は、エースと呼ばれる人々にも存在する。

 本書の特色は、エースへのインタビューと、著者自身の体験を踏まえた考察の深さにある。エースたちの体…

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