教養・歴史書評

書店主導の書誌流通を目指して新会社設立へ 永江朗

 紀伊國屋書店と、蔦屋書店などを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)、そして日本出版販売(日販)の3社が6月19日、今秋にも予定される合弁会社設立に向けて調印式を行った。

 会社設立の目的は書店主導の流通改革。現在、日本の出版流通の主流は、出版社と取次が主導するかたちだ。出版社は書籍や雑誌を作ると取次に搬入し、取次は規模や立地、実績に応じて書店に配本する。「パターン配本」とか「ランク配本」と呼ばれる。この方式では、書店の意思はほとんど反映されない。書店からは「売りたい本が入ってこない」という不満が常に聞こえてくる。また、3~4割と高い返品率の要因にもなっているといわれる。

 新会社が目指すのは、従来の方式を逆転させたシステムである。書店が仕入れと配本のイニシアチブを握り、出版社と協議して配本数を決める。取次(日販)は補完的な役割にとどまる。いわゆる「プロダクトアウト」から「マーケットイン」への転換だ。新会社では粗利率が30%以上となる取引を増やすという。紀伊國屋書店とCCC傘下の1000店舗から開始し、賛同する他の書店の合流も視野に入れているという。

 かつて「何が、どこで、いつ、いくつ売れたか」という細かな販売データは取次だけが持っていた。ノートに手書きで単品管理する書店もあったが、多店舗間で共有化するのは難しかった。いまはPOS(販売時点情報管理)レジの普及で書店もデータを持つようになったし、ネットで共有化も容易になった。出版流通が書店主導になるのは必然的である。

 もっとも、販売データは「売れた」というデータであり、いくらAI(人工知能)を駆使して発注しても、まだ出ていない本の需要を完璧に予想できるわけではない。現場の経験や勘との組み合わせが鍵だ。

 この構想が成功したら、日本の出版流通の大きな転換点となるだろう。出版流通という本業で利益を出せなくなった取次にとっても、経営スリム化のチャンスかもしれない。いずれにしても、出版社にとって、「本を作れば(とりあえず取次に送って)カネになる」という時代の終わりが近いことは確かである。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。


週刊エコノミスト2023年8月1日号掲載

永江朗の出版業界事情 書店主導の流通改革へ新会社

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