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教養・歴史 書評

爆撃機と空襲の歴史から日本の加害と被害が見えてくる 井上寿一

 戦争をめぐる記憶が呼び起こされる季節になった。戦時中の同時代の人々にとって、空襲の記憶を消し去ることはできないだろう。空襲の記憶はB29爆撃機と一対である。東京大空襲の焼夷(しょうい)弾も広島・長崎の原爆もB29から投下された。若林宣(とおる)『B-29の昭和史 爆撃機と空襲をめぐる日本の近現代』(ちくま新書、1078円)はこのB29を通して昭和史を再構成する。

 日本本土を焦土化したB29は悪魔のように見えたのか。そうではなかった。きらめくジュラルミンの流線形の機体から「きれい」「美しい」と感じた。「目にもすばらしい敵機」の襲来だった。

 迎え撃つ日本の戦闘機は歯が立たなかった。高々度(地上より7、8000~1万メートル前後までの高さ)を飛ぶB29を追うために、装備を取り外して重量を軽くした。追いついたらどのようにB29を撃ち落とすのか。それが体当たり攻撃だった。

 地上は地獄絵図と化した。B29からの爆弾や焼夷弾だけでなく、撃墜されたB29も墜(お)ちてきた。パラシュートで脱出した搭乗員は、日本の民間人に取り囲まれて暴行を受けることもしばしばだった。上野動物園の檻(おり)に入れられて見世物にされることもあったという。

 日本側にも理屈があった。非軍事施設を爆撃したり一般民衆を殺傷したりしたB29の搭乗員は、国際法違反の容疑者として処罰しなければならなかった。無差別爆撃を犯罪として裁いたのは日本の方だった。

 他方で日本は中国大陸において無差別爆撃を行っていたのだから、二重基準との非難を免れないだろう。実際のところ一ノ瀬俊也『飛行機の戦争1914-1945』(講談社現代新書、1012円)によれば、たとえば雑誌『主婦之友』(1941年9月号)は重慶爆撃のグラビアを掲載して、「崩れよ! 燃えよ! アジアの癌(がん)」と戦争熱をあおっている。このグラビアからは地上の様子を想像することは…

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週刊エコノミスト

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