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週刊エコノミスト Online 創刊100年特集~Archives

「社会的共通資本」に託す未来 宇沢弘文(2003年5月6日)

 週刊エコノミストは2003年に創刊80周年を迎えた時にも、著名な経済学者に記念論文の執筆をお願いした。以下はその際の宇沢弘文・東京大学名誉教授の論文の再掲載です。

東京大学名誉教授 宇沢弘文

創刊80周年 21世紀経済

 20世紀、理想を目指したはずの社会主義は幻想に終わった。一方にある資本主義にも限界がある。21世紀には、資本主義も社会主義をも超える経済体制が必要だ。それは「社会的共通資本」の考え方に求められる。

 20世紀は資本主義と社会主義の世紀であるといわれている。資本主義と社会主義という二つの経済体制の対立、相克が、世界の平和をおびやかし、数多くの悲惨な結果を生み出してきた。

 そして、20世紀末から現在にかけて、世界は、経済、社会、政治、文化のすべての分野において、第2次世界大戦後最大の危機を迎えている。この危機的状況を超えて、21世紀の展望を開こうとするとき、もっとも中心的な役割をはたすのが、ジョン・スチュアート・ミルに始まり、ジョン・デューイによって一つの哲学的体系として集大成されたリベラリズムの思想である。

 このリベラリズムの思想を一つの経済学の体系として定式化したのが、ソースティン・ヴェブレンの制度主義の考え方である。

 ヴェブレンの制度主義は、資本主義と社会主義を超えて、すべての人々の人間的尊厳が守られ、魂の自立が保たれ、市民的権利が最大限に享受できるような、リベラリズム本来の理念に適った経済体制を実現しようとする。「社会的共通資本」は、この制度主義の考え方を具体的なかたちで表現したもので、21世紀を象徴するものであるといってよい。

 日本経済の未来を考えるためにも、リベラリズムの理念に適ったかたちで社会的共通資本が運営され、持続的な経済発展が可能になるには、どのような制度的前提条件がみたされなければならないかを考察する必要があろう。

二つの『レールム・ノヴァルム』

 20世紀の歴史的意味を象徴的に表す二つの歴史的な文書がある。1891年に出された『レールム・ノヴァルム』と、その100年後の1991年に出された新しい『レールム・ノヴァルム』という二つの回勅である。

 1891年5月15日、ローマ法王のレオ13世によって出された回勅は、『レールム・ノヴァルム』と題され、経済学の思想に大きな影響を与えてきた。『レールム・ノヴァルム』には「資本主義の弊害と社会主義の幻…

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