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金融政策には限界がある「戦術」で補えない「戦略」の失敗~見直し必要な日銀の戦略 池尾和人(2016年4月5日)

慶応義塾大学教授 池尾和人

黒田東彦・日銀総裁が打ち出した短期決戦型の政策の限界が明らかになりつつある。金融政策の立て付けそのものの見直しが必要だ。

 一つの「戦術」としてみると、日銀のマイナス金利政策はよく考えられた仕組みで、評価できないものではない。階層構造を導入し、政策に伴う副作用をできるだけ抑えて効果を上げられるよう設計されている。

 すなわち、民間の金融機関が日銀に預ける日銀当座預金は、(1)マイナス0・1%の金利を適用する「政策金利残高」、(2)0%を適用する「マクロ加算残高」、(3)プラス0・1%を適用する「基礎残高」──の三つの階層に区分される。そして、このうちの「マクロ加算残高」の額を日銀が決めることで、マイナス金利が適用される「政策金利残高」の額を調整できる仕組みになっている。

 日銀は、政策金利残高の額を最終的に10兆~30兆円、平均20兆円になるように調整するとしている。このことで、金融機関の収益に与える悪影響を限定的にしている。

 また、個別の金融機関ごとには、それぞれの階層の利用状況に差が生じざるを得ない。こうした差に応じて、金融機関の間で裁定取引が行われることが期待されており、短期金融市場での取引が消滅してしまわないように配慮されている。

 これらの点で、マイナス金利の影響を十分認識した上で制度設計をしているとみることができる。

不発のレジームチェンジ

 しかしながら、マイナス金利政策は、現在の金融政策の「戦略」的な行き詰まりを打破できるものだとは思えない。そもそも、日銀が2013年4月に導入した量的・質的金融緩和政策は、「短期決戦型」の立て付けのものであった。黒田東彦総裁は「2年で2%」の物価安定目標に強くコミットする姿勢を見せつけることで、企業や家計のインフレ期待を一気に押し上げ、この目標を達成できるような経済状況を作り出すことを狙っていた。

 意図されていたのは、インフレ期待の非連続的な変化であることから、「レジームチェンジ」(枠組みそのものの転換)と称されていた。インフレ期待の漸進的な改善を意図していたわけではないからこそ、「戦力の逐次投入はしない。現時点で必要な政策は全て講じた」という言い方がなされたわけである。

 ところが、レジームチェンジの名に値するようなインフレ期待の上昇はいまだに実現されていない。この意味で、短期間で一気に決着をつける意図…

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