日本に24人しかいない国際山岳看護師の思考と行動に浸る 高部知子
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私が子供の頃、クラスにひとりは「ハカセ」というあだ名の子がいたように思う。ハカセは何かの分野に秀でていて、とにかくよく知っている。そして休み時間になると独りで分厚い本を読んでいた。現代はどうだろう。ネットで1分あれば大概の情報は手に入る。辞典を暗記する必要などなくなってしまった。
ではなぜ本を読むのだろう。改めてこう問われたら、私はなんて答えるのだろうか。たぶん「浸りたいから」。自分が知らない世界、自分では決して体験できない世界にじっくり浸りたいから。そしてその世界の人が感じる息遣い、体温、心の機微をじっくり追体験してみたいから。すると時々、息が止まりそうな世界に出会うことがある。今回の本『「おかえり」と言える、その日まで』(中村富士美著、新潮社、1540円)がまさにそれだった。
ニュースでしばしば見聞きするけれど、一般的にはあまり経験することがない遭難。しかし近年、遭難をめぐる捜索の需要が増えているのだという。著者は国内で24人しかいない「国際山岳看護師」で、山岳遭難捜索隊の民間団体を立ち上げ、行方不明になった人を家族に帰してあげたい一心で捜索を続けている人。本書はその体験談だ。6例紹介されているのだが、6例全員遺体で発見されている。なんとつらい壮絶な仕事だろう。しかしその体験談からは実にさまざまな教訓が見いだされる。
例えば山で遭難した場合、当事者は下山したがるが、逆に上に登った方が安全かつ救助隊が見つけやすいのだという。そして「イケイケな性格か」「慎重な性格か」など、登山者の性格によって遭難の仕方が変わり、それに伴い捜索場所も大きく変わるらしい。また初心者なら「道迷い」、中級者以上なら「事故」が多く、草木の伸び具合など季節によってもずいぶん違ってくるという。
こうした著者(および捜索隊)の思考はまさに「プロファイリング」(本来は犯罪捜査の用語。犯罪の性質や特…
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週刊エコノミスト
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