財政健全化計画を投げ出すな 元首相・立憲民主党衆院議員・野田佳彦さん
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創刊100周年 編集長特別インタビュー/5 政権交代可能な2大政党制が理想とされた小選挙区制度の導入から来年で30年だが、「1強多弱」の定着が現実だ。今何が必要なのか。民主党政権で首相を務めた野田佳彦衆院議員(66)に聞いた。(聞き手=岩崎誠・本誌編集長)
── ご自身のお話からうかがいます。大学卒業と同時に政治家を育成する「松下政経塾」に入られたんですね。
野田 立花隆さんが田中金脈問題で政治を変えていく力を示したのを見て、ペンで政治を変えられるんじゃないかと思い、メディア志望でした。大学4年生の秋口くらいに親父が松下政経塾の1期生募集の新聞広告を見つけまして。パンフレットを取り寄せて強烈に魅力を感じ、ペンではなくストレートに政治を変えることができるのではないかと思ったのがきっかけです。
── 松下幸之助さんが面接官だったと聞きました。
野田 最終面接ですね。ややこしい話はなくて「親戚に政治家はいるか」と聞かれ、「誰もいません」と言うと「ええな」とつぶやかれ、「お金持ちか」と質問され、「中の下くらいじゃないですか」と言うと「なおええな」と。何がええのか分かりませんでしたが(笑)。
── 塾での幸之助さんの指導は覚えていますか。
野田 月に1回か2回来られました。ご自身の人生観などの話をされた。我々の青臭い質問にも答えてくださった。
鳴かぬなら鳴かせてみようとか、3人の天下人をホトトギスで比較する句があるじゃないですか。信長か秀吉か家康か3類型のどれですかと塾生が質問したら即答だった。「どれもすべて違う」と。「鳴かぬならそれもまたよしホトトギス」と。適材適所の経営をやってこられましたよね、なるほどと鳥肌が立ちました。
幸之助氏から助言
── その後千葉県議になられますが、最初の選挙は苦労されたそうですね。
野田 無所属ですし、地盤(組織)も看板(知名度)もかばん(資金)もない。名簿を集めたり電話作戦したりして、ある公民館で集会を開いたところ1人しか来なかった。こんなことしてたらとても勝てない。ご存命だった松下幸之助さんにご指導を仰ぎに行ったら、「言いたいことがあって話を聞いてほしいんだろう。だったら頭を使え」と言われまして。「わしだったらなあ、たくさん人がいる前で皿回しするぞ」と。「皿回したらみんな足が止まるじゃないか。そこでマイクを握ってしゃべったらどうなんだ。そういうくらい、いろいろアイデアを出してチャレンジしろ」と諭されました。
技術がないので皿回しはやりませんが(笑)、それから毎朝街頭に立つようになって37年です。今朝(7月4日)も2時間コースでした。初めは同じ場所、JR津田沼駅に立ちっぱなしで13時間、しゃべり続けました。選挙期間中はみんな街頭に出てくるので差別化しようと。「残り8時間」とか巻紙を置いて視覚的にチャレンジする姿が分かるようにした。そしたら残り2時間というところで朝見ていた人が「本当にまだやっている。何を言いたいんだ」と足を止めてくださって最後は500人くらいコンコースに。13時間しゃべり続けると500人たまる。
── 衆院議員選には日本新党から出馬されました。
野田 県議時代は無所属でした。当時55年体制下で、いちばん大きい自民党、次に社会党、あとは共産、公明、民社と。どこか入れる政党ができないかという時に中央で細川護熙さんの呼びかけで日本新党ができるということで、その第1次公認候補になりました。
── どういう狙いで挑戦したのですか。
野田 55年体制を壊したいという気持ちが強かったですね。万年与党、万年野党の枠組みが三十数年続いて政治がよどんでいるところがあった。時には政権が変わることによって政党間の競争がもっと出てきた方がいいだろうと。
安倍元首相の追悼演説
── 昨年7月、安倍元首相が銃撃事件で亡くなりました。その国葬に出られましたね。
野田 国葬自体は拙速に決めすぎたと思います。吉田茂さんの時はもう少し野党を巻き込みながら国葬にしようとした動きがありましたが、今回もう少し議論をした方が良かったと思いました。
そのうちに9月の半ばになって国葬のご案内が届きましてね。海外から要人が来る、皇室も参加されるというなかで、「いかがなものか」と言っている段階ではないと。総理経験者として政権をバトンタッチした当事者ですから。(立憲民主)党は幹部以外は自主判断ということだったので、だったら私は出席するのが自分の人生観に合っていると思った。厳しい批判はいっぱい来ましたが。
── その後の国会での追悼演説は話題となった。ぜひやってみようという感じでしたか。
野田 ぜひということはなく気が重かったです。(演説の)柱にしたのは「政治家の握るマイクは単に言葉を通す道具ではない」ということ。「その先に国民の生活や命がある」という表現を前半と後半で使った。マイクを握って前を向いて未来を語ろうとしていたときに後ろから襲われることは、与野党すべての政治家が無念に思わねばならないと思った。
私は柔道部の出身なんですが、講道館柔道の神髄は「自他共栄」です。ひら…
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週刊エコノミスト
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