異分野融合で多様性広げよう ノーベル化学賞受賞者・田中耕一さん
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創刊100周年 編集長特別インタビュー/6 日本はかつては「科学技術立国」とされたものの、最近は人材の先細りなど研究力の低下が指摘されている。科学技術力を再興するための処方箋はあるのか。島津製作所エグゼクティブ・リサーチ フェローで、ノーベル化学賞を受賞した田中耕一さん(64)に聞いた。(聞き手=岩崎誠・本誌編集長、構成=中西拓司・編集部)
── 最近の研究活動について教えてください。
田中 私ももう60代です。年を取りました。どうしても朝早く起きてしまいます。午前5時前に起きることもあります。出勤は早めになりますが、同僚や部下が来ていない会社は、とても自由なんです。誰にも邪魔されない午前7時~8時20分ごろが、私のゴールデンタイムです。いろいろな資料の作成の時間に充て、ちょっと時間をオーバーすることもありますが、実験やそのデータの解析をすることもあります。部下たちが出勤したら、相談に乗ったり、グループの会議に出たりします。帰宅は午後5時か6時です。「上司がいるので部下は帰れない」という会社もあるようですが、そんなことはありません。私自身が自由な時間に出社しているので部下も自分の決めた時間で自由にやっています。
血液でアルツハイマー検査
── 島津製作所では質量分析技術に長く携わっています。
田中 一般にはなじみがないかもしれませんが、分子一つ当たりの質量を測る技術です。物質の成分を推定し、これまでのデータと組み合わせて科学的に解析することで、食品や医薬品などの品質や効能を調べることができます。食品などの安全性を守る縁の下の力持ちといえます。最近では、認知症の一種であるアルツハイマー病の原因と考えられるたんぱく質「アミロイドβ(Aβ)」を、わずかな血液から測定する技術を開発しました。国の「最先端研究開発支援プログラム」として2010年から、アルツハイマー病の根本治療薬の開発を目指しましたが、残念ながら私たちの力では目標を達成できませんでした。その研究を生かす手はないかと考え、質量分析技術を生かして、国立長寿医療研究センター(愛知県)とともにアルツハイマー病になる変化を血液の分析で捉えられないかといった研究に切り替えました。
── 血液からわかるのですか?
田中 従来は、腰に長い針を刺して脳脊髄(せきずい)液を採取して調べていましたが、麻酔が必要で時間もかかりました。そこで採取した血液からAβを検出できないかチャレンジしました。血液の中には脳の状態を表す物質がごく微量に存在していますが、その他さまざまな物質も含まれています。研究の結果、血液にわずかに含まれるAβを検出することはできましたが、それを基にしてアルツハイマー病の人とそうではない人とを見分けることはできませんでした。
そこで長寿研の血液の検体と私たちの技術を組み合わせ、たんぱく質の比率からAβの蓄積状況を捉える検出手法を開発することに成功し、14年に論文を発表しました。18年には日本人以外にもこの検出法が適用できることを発表し、欧米人にも利用できることが評価されました。21年にはこうした測定装置を製品として発売することができました。人の病気を解明しようと思うと、やはり時間がかかるということを思い知らされました。
京都こそ研究の場
── 京都を研究活動の場としています。
田中 東京には人材やモノ、資金、情報が集中しているという利点はありますが政府や省庁関係者から頻繁に呼び出され、研究に時間がとれないとの声を聞くこともあります。そういう意味では、京都は「邪魔」が入りにくい(笑)。私自身は東京が嫌いで、大学も東北大学を選びました。そういう人は意外にいるんじゃないでしょうか。「杜(もり)の都」の仙台には憧れもありました。私にとっては、東京は大きすぎました。富山に住んでいましたが一気に人口1000万人の都市に行くのは怖かったんですね。大学と、その周りの環境というのはとても大事だと思います。京都は日本人が考えるよりも、たくさんの魅力があります。歴史が深く、京都だから行きたいという海外の研究者もたくさんいます。
── 京都大の存在も大きいでしょうか。
田中 京大があるからこそ、研究の裾野が広がっていると感じます。新しいものを生み出すためには、真っさらな状態から生み出す方がいい、ということも正しいとは思いますが、長い歴史の中で積み上げたものから学ぶという姿勢も重要です。「巨人の肩の上に立つ」という言葉があります。先人の積み重ねがあってこそ新たな発見がある、という意味ですが、確かにそういう面があります。
── 本社が京都の企業も多い。
田中 その背景には「歴史に反発しながらもその歴史に学ぶ」という面もあると思います。「歴史の厚み」を感じつつも、場合によってはそれと違うことをやりたいという、いい意味でも悪い意味でも(歴史という)手本があることが京都で仕事をするメリットだと思います。私自身も「もし東京に移ったら、他の企業と差別化できるのか」と自問することもあります。米国で新しいものを生み出す場は、ニューヨークでもワシントンでもなく、ボストンだったりシリコンバレーだったりします。研究の場は政治経済の中心の東京である必要はありません。
「失敗」がノーベル賞に
── たんぱく質などの大きな分子の物質を壊さず、イオン化(電…
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週刊エコノミスト
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