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ビッグモーター保険金不正で露呈した“食い物”にされる自動車オーナーの現実 河村靖史

さいたま市のビッグモーター店舗。7月28日には国土交通省も立ち入り検査に入った
さいたま市のビッグモーター店舗。7月28日には国土交通省も立ち入り検査に入った

 中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正問題で、自動車保険の代理店になっている自動車販売店や整備事業者と損害保険会社の「持ちつ、持たれつ」の関係により、自動車ユーザーが不利益を被っているのではないかという疑念が広がっている。

 ビッグモーターの不正が最初に発覚したのは2022年1月。同社の社員が内部告発したのがきっかけだった。これを受けて保険代理店契約を結んでいる損保各社が、ビッグモーターに対して調査を要請。今年1月になって、ようやく外部弁護士で構成される特別調査委員会が発足し、その調査結果が公表されたことで、同社の一連の不正が次々と明らかになった。

 調査結果によると、ビッグモーターは交通事故などで修理の依頼を受けた車両に対して、同社従業員がゴルフボールを入れた靴下でボディーをたたくなどし、損傷箇所を増やしたうえで損保に保険金を水増し請求していた。同社従業員には会社上部から、工賃と部品の粗利の合計額を、修理1台当たり14万円以上とするノルマが課されており、これを達成するために不正に手を染めていたという。

 保険金の不正請求問題では、ビッグモーターと関係が深く、社員を一時出向させていた損害保険ジャパン、三井住友海上火災、東京海上日動火災の損保大手3社の責任を追及する声も強まっている。中でも、損保ジャパンはビッグモーターの自動車保険契約の幹事社を務め、11年以降、合計37人をビッグモーターに出向させるなど親密な関係を続けてきた。他の2社の出向人数がそれぞれ3人だったのに対し、損保ジャパンの出向人数は突出している。

自賠責を割り振り

7月23日にあった記者会見に臨むビッグモーターの兼重宏行社長(右、当時)
7月23日にあった記者会見に臨むビッグモーターの兼重宏行社長(右、当時)

 ビッグモーターの社長だった兼重宏行氏の長男で、副社長だった兼重宏一氏は、損保ジャパンが経営統合した日本興亜損害保険の社員だったこともあり、損保ジャパンと関係が深かった可能性も否定し切れない。それだけに、損保ジャパンからの出向者が、ビッグモーターの保険金水増し請求を知っていたのではないかという疑いが出ている。

 損保会社が自社の収益悪化につながる保険金水増し請求を黙認していたとするなら、その理由は損保側には大きな損害にならないからだろう。損保会社は、事故に遭った自動車の自動車保険契約者の修理先としてビッグモーターを紹介しており、ビッグモーター側は損保からの修理の紹介実績に応じて、加入する自動車損害賠償責任保険を損保各社に割り振っていた。

 ここで、自賠責保険がキーワードになってくる。ビッグモーターは、主力の中古車販売台数が業界トップクラス。帝国データバンクによると、22年の中古車販売市場でのビッグモーターのシェアは約15%だ。自賠責保険は自動車購入時に契約・加入が義務付けられ、保険内容も保険料も各社全て一律。そのため、中古車を購入した人が「自賠責保険の加入先は、〇〇損保にしてくれ」などと指定することはまずない。

告訴できない被害者

 損保会社にとって自賠責保険は利益が出ない商品だが、販売費などを一切かけず、何もしなくても1台当たり2万円以上の売り上げを確保できる重要な商品だ。また、中古車販売力の強いビッグモーターと関係を強化すれば、自賠責保険とは別の任意保険に関しても、自社の保険商品を自動車ユーザーに強力に推してくれるという期待もある。

 実は、ビッグモーターは保険代理店としても年間200億円超の保険料を取り扱っていた模様で、損保にとって最重要の保険代理店の一社だったわけだ。それだけに、仮に損保がビッグモーターの機嫌を損ねて自賠責保険の自社割り当て分を減らされたり、任意保険の収入に影響するのは避けたいと考えていたとしてもおかしくはない。「有力な保険代理店に対して、損保はモノを言える立場にない」(ある自動車ディーラー)のが実態だ。

 仮に、ビッグモーターの社員が故意に車両を傷付けたとしても、その部分は結局、修理してしまうため、被害者であるその自動車の持ち主は気が付かない。本来ならば、こうした行為は器物損壊罪や詐欺罪にあたる犯罪行為だが、これらは被害者が告訴しないと罪に問えないため、被害に遭った自動車の持ち主が警察や司法機関に届け出なければならない。

「利益相反」の指摘も

 さらに、ビッグモーター従業員が故意に傷を付けて、その修理代金が正当な修理代金と判断された場合、任意保険の契約者(自動車の持ち主)が、任意保険の「等級が下がって」保険料が上がるのを避けるため、あえて任意保険を利用しなかったケースも考えられる。その場合、自動車の持ち主は金銭的な被害だけでなく、修理歴が残るのでそのクルマの価値が下がり、売却時の下取り価格に影響することも考えられる。

 クルマの持ち主の被害はそれだけではない。損保会社はビッグモーターの水増しされた保険金を支払って修理コストが増えても、保険料を引き上げることで回収できる。ビッグモーターが収益を確保するため、修理代金を水増し請求した分は、全ての保険契約の保険料アップにつながる。つまり、一般の自動車ユーザーが負担している。ビッグモーターも損保会社も損はしないわけだ。

 そもそも事故に遭った車両の修理費用の査定に関与する保険代理店と、実際に車両を修理する整備工場が同じなのは「利益相反行為」に該当すると指摘する関係者も多い。海外では、事故車両を修理する事業者が保険代理店となるのは利益相反行為となるため、禁止しているケースもある。

 巨大な損保会社であっても販売力の強い自動車ディーラーには頭が上がらないというのが、業界の実態だ。今回のビッグモーターによる保険金不正問題は、「氷山の一角」との見方もある。金融庁も保険代理店である新車や中古車、整備工場などの事業者と損保のあり方を問題視しているようで、自動車ユーザーをあたかも“食い物”にしているかのような、関連業界の「持ちつ、持たれつ」の関係を解消するため、法改正を含めた制度の見直しが進む可能性がある。

(河村靖史・ジャーナリスト)


週刊エコノミスト2023年8月29日号掲載

FOCUS ビッグモーターの不正問題 損保との「持ちつ、持たれつ」 自動車ユーザーに不利益構造=河村靖史

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