今後の歴史学の中核は“社会史”と“心性史”だ 本村凌二
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じっくり考えてみれば気がつくことだが、「歴史学」とは厄介な学問ではないだろうか。自然界の成り立ちを探究する物理学には「真実」らしきものがある。だが、歴史学の前提となる「事実」はあるのかと問うと、どこかに心もとない点がある。
池上俊一『歴史学の作法』(東京大学出版会、3190円)は、このような根源的な問題をかかえる「歴史学」の現在に目をそそぎながら、全体史としての「歴史学」の構築を試みる歴史学案内書でもある。
現代の諸学であれば、研究の高度化・細分化の宿命はまぬがれがたい。歴史学も例外ではなく、ある事件の因果関係を事細かに調べ上げる素朴実証主義の魅力(?)はどこにでもころがっている。だが、過去を学ぶことが素直に楽しいと思える者はきわめて少ないのではないだろうか。というのも、過去をふりかえることが未来の生き方に何か「役に立つ」ことがなければならないというのも、素朴な歴史学習者の実感だろう。
しかしながら、「役に立つ」かどうかは別にして、著者の語るように「現在の社会は、そのあらゆる面において歴史的に形成されたものであり、過去の遺産が社会生活のすべての面に生きている。だから歴史を知ることは、現在の理解と未来に向かってのより良い生き方へと繋(つな)がろう」ということの自覚は必要であろう。
この自覚の度合いを高めるためには、やはり歴史の全体像をたえず傍らにおき、個々の歴史事象を分析することが不可欠である。このために、著者は、これからの歴史学の中核となるべきものは「社会史」と「心性史」であることを強調する。
心性こそが社会の緊張と闘争の枢要な要因になっているが、その理解には「表象」や「感情…
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週刊エコノミスト
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