元太科技工業 台湾の電子ペーパー大手 富岡浩司
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E Ink Holdings 値札から名札まで用途拡大中/90
元太科技工業(イー・インク・ホールディングス)は「電子ペーパーディスプレー(EPD)」の世界シェアが高い台湾企業だ。EPDとは電子書籍端末などに用いるディスプレーで、表示中に電力を消費しない。
台湾製紙大手の永豊余造紙が1992年、液晶ディスプレーのメーカーとして設立した。2004年には台湾の新興企業株取引所「タイペイエクスチェンジ(TPEx)」に上場している。翌年、オランダ電機大手フィリップスのEPD事業を買収し、ソニーが発売した世界初の電子書籍端末向けに供給した。09年には「電気泳動式EPD技術」を保有する米イー・インクを買収。16年に液晶ディスプレー事業を分離してEPD専業となり、順調に業績を伸ばしている。
アマゾンも採用
EPDはパソコンやタブレット端末のディスプレーと比べるとユーザーの目が疲れにくく、読みやすい。また、パソコンやタブレット端末は使用中に動作を受け付けなくなる「フリーズ」が起き、作業中のデータが消えてしまうことがあるが、EPDを使う電子書籍端末は起きにくい。ノートのようにメモを書き込める点も長所だ。
EPDの方式はいくつかあるが、同社が使用する電気泳動式が最も一般的だ。以前のEPDは表示色が白黒の2色で、画面の変遷が緩慢だった。最近は3色の画像が鮮明になり、表示スピードも明らかに速くなった。米アマゾン・ドット・コムが07年に市場投入した電子書籍端末「アマゾン・キンドル」も元太科技のEPDを搭載している。22年年次報告書によれば、世界の反射型ディスプレー市場で同社のシェアは高いという。
EPDのカラー化や画像の鮮明化が急激に進んだことで、学校、学習塾、予備校といった教育市場で電子書籍端末の使用拡大が見込まれている。教科書、参考書、ノートを電子書籍端末で代替すれば、生徒は重いかばんを持ち歩かずに済む。タブレット端末より価格が安い上、目に優しく、電力消費が少ない点も利点だ。
今後は業務用途が増えそうだ。同社は18年、同社のEPDを「電子棚札」に組み込む仏エスイーエス・イマゴタグに出資した。電子棚札とは小売店の値札を電子化したもの。従来の値札は値段が変わるたびに廃棄する必要があるが、電子棚札は電子的に表示を変更できる。
ほかにも屋外広告のサイネージ(看板)、バス停留所、医療従事者や患者用の名札にもEPDが使われるようになった。また、独BMWは乗用車に元太科技のEPDを貼り付け、車体色が刻々と変わるコンセプト車を披露した。
上値が重い株価
EPDは環境保護の観点でも秀でている。木材由来の紙…
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週刊エコノミスト
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