前半ばかり注目されてきた三国志の後半を描く歴史小説 加藤徹
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三国志の乱世は184年から280年まで、約100年続いた。小説や映画、漫画の『三国志』は、100年の乱世の前半だけを取り上げるのが普通だ。208年の赤壁の戦いも、220年の後漢の滅亡も、三国志の見せ場は前半に集中する。登場人物も、第1世代の大物である劉備、関羽、張飛、曹操らは、後漢の滅亡の前後に退場する。
第2世代の諸葛孔明も、234年に陣没する。江戸川柳に、「孔明が死んで夜講の入りが落ち」というとおり、昔から三国志の後半戦は人気がなかった。毎夜、三国志を語る講談師も、後半は苦労した。
塚本靑史『姜維(きょうい)』(河出書房新社、2178円)は、三国志の後半戦をしっかり描いた歴史小説だ。
主人公の姜維は202年、中国西北部の涼州で生まれた。少年のとき戦争で地方の高官だった父を失う。姜維は、三国志第1世代の英雄たちの相次ぐ死を「ナレ死」(時代劇等でナレーションだけで死が告げられる状況)的に聞きながら成長する。
姜維が蜀に合流したのは228年。「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」の故事で有名な諸葛孔明の北伐の時だった。
塚本版の孔明は天才軍師ではなく淡々としてリアルな軍政家だ。独断専行して敗北した馬謖を粛々と処刑。国家財政のため、ある禁断の植物の栽培を指示。若い頃英明だった呉の孫権が凶暴になったのも、この禁断の植物のせいだ。その植物とは──本書を読んでのお楽しみである。
孔明の死後、姜維は蜀の軍事の中枢を担う。蜀は劉禅(りゅうぜん)の暗君ぶりと宦官(かんがん)の横暴で混乱。魏(ぎ)も司馬懿(しばい)と息子の台頭で国をのっとられる寸前。呉も孫権の異常化で内紛続き。
本書の姜維は、第1世…
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週刊エコノミスト
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