日銀は「資産価格の安定」に努めよ 水野和夫
有料記事
2008年のリーマン・ショック以降、欧米主要国は低インフレ、低金利、低成長に陥った。一足先にそうなっていた日本と同じ道を歩む、「ジャパニフィケーション(日本化)」と恐れた。そこで強力な金融緩和を実施して、その回避に取り組んだが、各国・地域が目標とする2%インフレ(物価上昇)を実現するには至らなかった。
>>特集「金利ある世界」はこちら
しかし、インフレは思わぬ方向から突如やってきた。20年春に始まった新型コロナウイルスの世界的なパンデミック(大流行)である。未知の疫病に対して、世界各国・地域は移動制限で対応せざるを得ず、その結果、それまでのグローバリゼーションで世界中を網羅したサプライチェーン(供給網)が寸断。供給ショックは、世界にインフレをもたらした。
日本もその枠外ではいられなかった。22年4月から消費者物価指数(生鮮食品を除く総合、コアCPI)は、日銀の目標である2%を超え、足元では3%台が続く。インフレは金利上昇圧力となり、主要国で唯一金融緩和を続ける日銀に対応を迫っている。
7月の政策決定会合で、日銀は長短金利操作(YCC)を柔軟化し、10年国債利回り(長期金利)の上限を0.5%から1%に引き上げた。事実上のYCC撤廃ともいえ、長期金利の上昇を容認する構えに切り替えた。9月中旬には、0.7%台に上昇。日本にも「金利のある世界」が訪れようとしている。
加えて、22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻で、自由民主主義国(日米欧)vs独裁権威主義国(中露)の対立が激化。コロナによる物理的な分断は改善に向かう中、エネルギーや食料品価格の上昇を通じて、世界にインフレをまきちらす。
過度な円安→輸入価格上昇
疫病や戦争は、経済活動とは無関係に起きた不測の事態と理解する人が少なくない。だが、私は違うと思う。グローバリゼーションのなれの果て、資産バブルの生成とその崩壊を繰り返す資本主義の断末魔と理解している。
人間が地球の果てまでサプライチェーンを広め、本来、動植物とすみ分けていた地域まで開発したために未知の疫病に感染したのだ。自然からのしっぺ返しを食らったと私は考える。また、ウクライナ戦争に関しては、ロシアを追い詰めた西側諸国にも一定の責任があり、その結果、自ら反グローバリゼーションを引き起こしている。
英経済学者のケインズは、「資本主義社会を崩壊させるのはインフレ…
残り851文字(全文1851文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める