中国で日本車苦戦 中価格帯でシェア落としEVシフトに翻弄され 湯進
EV化が急速に進展する中国市場で日本車のシェア低下が顕著になっている。まずは、ガソリン車で残存者利益を守ることが重要だ。
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米電気自動車(EV)大手のテスラは2023年9月1日、中国でセダン「モデル3」の改良版の受注を開始した一方、輸入プレミアムモデルの「モデルS」「モデルX」の大幅な値下げを実施すると発表した。この2モデルは3カ月連続での値下げとなり、上海で生産する「モデルY」も8月から値下げを実施した。テスラはそれまでにも受注状況に応じて頻繁に価格調整を行っており、結果として「モデルY」の価格はわずか1年で日本円にして約200万円も安くなった。テスラの価格破壊は中国の新エネルギー車(NEV)シフトをさらに加速させていく可能性がある一方、EV、プラグインハイブリッド車(PHV)とガソリン車の間での価格競争にも拍車がかかり、中国で日系を含む外資系自動車メーカーの苦戦の一因となっている。
アフターコロナの中国では、国民所得の伸び悩みが新車販売に影響を与えたものの、NEVの販売台数は依然として好調が続いている。コロナ禍前(19年)の120.1万台から22年の688.7万台に急速に伸びており、23年には800万台を超えると予測される。特筆すべきは新車販売全体に占めるNEVの割合である。23年1〜8月の中国NEV割合が29%に上昇したことから、中国EV市場が本格的な成長期に入ることも示唆される。
中国市場では世界に先駆けて急速な電動化シフトが起こっている。ハイブリッド車(HV)を除くガソリン車の販売台数は、依然新車市場の主流となっているものの、22年には17年に比べて880万台減少した。一方、NEV向け補助金政策が22年末に終了したことを受け、23年に入ってからEV値下げの動きが広がっている。前述したテスラに追随して、BYDや上海蔚来汽車(NIO)などEVメーカーをはじめ、トヨタ自動車、独フォルクスワーゲン(VW)も相次ぎ値下げし、中国市場でEV・ガソリン車を問わず、価格競争の波が押し寄せてきていた。
独VWは王座から脱落
行き過ぎた価格競争に対し、中国自動車工業協会は23年7月、BYD、米テスラを含む主要16社と過度な価格競争を防止することに合意した。しかし、業況低迷が長引く中、価格競争が収束する気配はなく、8月から既に十数社が値下げに踏み切り、市場競争も過熱している。
市場の絶対王者であるVWは23年1〜6月の新車販売でついにトップの座をBYDに明け渡した。VWの苦戦は人ごとではなく、日本車にも影響を及ぼしている。中国乗用車市場に占める日本車シェアは20年に23.1%、直近10年間で最も高い水準に到達した後、急落しており、23年1〜7月には14.7%となり、地場ブランド(53.8%)を大きく下回った(表1)。
こうしたトレンドの変化を受け、トヨタはEV専用のプラットフォームを採用し、スバルと共同開発した「bZ4X」、BYDと共同で開発した「bZ3」を投入した。ホンダはEVブランド「e:N」を立ち上げ、27年までには10車種を投入し、日産自動車は新型EV「アリア」を発売した。しかし日系EVは高価格であるため、ガソリン車市場で構築した日本車のブランド力がEVの販売増につながらず、中国NEV市場に占める日系シェアは23年1〜7月に1.5%にとどまっている。
特にソフトウエアで定義される自動車(SDV:Software-defined vehicle)開発の遅れは、日系EV低迷の主因になるとの意見が聞こえてくる。近年、中国では、IT・通信関連技術の進化から生まれたソフトウエアとハードウエアを分離する開発体制はクルマの構造を劇的に変えている。設計段階からソフトウエアやコミュニケーションシステムが組み込まれ、無線通信によるソフト更新(OTA:Over The Air)を自由にできるEVは、「走るスマホ」としてものづくりにイノベーションを起こし、SDVという新たなトレンドを生んでいる。
テスラのEVは、サービスセンターと常につながって不具合を診断するなどしており、自社開発した車載コンピューターを中核に据えた中央集中型の車載電子基盤は、既存自動車メーカーより先行しているとされる。テスラに追随する中国新興EVメーカーも新しいビジネスモデルを構築しようとしている。足元ではこうしたスマート機能を備えるEVが主に高級車市場でドイツ勢と競合しており、日系車の中国販売への影響は限定的であろう。
BYDが価格破壊のPHV
中国新車市場の実態から日本車低迷の要因は一目瞭然だ。23年1〜7月の新車販売では、ボリュームゾーンとなる10万〜20万元(約200万〜400万円)の中価格車が市場全体の49%を占め、20万元以上の高価格車、10…
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週刊エコノミスト
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