経済・企業

米インフレ抑制法は「中国優遇」と批判の声 UAWがスト発動 岩田太郎

官民挙げたEV転換に反発する全米自動車労組のフェイン委員長(左) Bloomberg
官民挙げたEV転換に反発する全米自動車労組のフェイン委員長(左) Bloomberg

 米政権が電気自動車(EV)の普及を狙って成立させた「インフレ抑制法」は本当に米雇用にプラスなのか、批判の声も上がっている。

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 米連邦下院議員がEV用電池工場を建設中の米フォード・モーターに反発している。下院エネルギー・商業委員会の所属議員26人は9月1日、同社が中国企業から技術供与を受けて建設中の新工場について、「米国のEV供給網を支配しようとする中国のもくろみを支援し、対中依存を強めて国家安全保障を危うくしかねない」とする書簡を送付した。

 新工場はフォードの完全子会社が中西部ミシガン州で建設中。技術提携先の中国企業とは車載電池の世界最大手、寧徳時代新能源科技(CATL)だ。フォードは新工場の運営会社をCATLとの合弁会社にしなかった。フォードが2022年成立の「インフレ抑制法」による税額控除を受ける目的で合弁を避けたのではないかとする見方を書簡は記した。

CATL依存に反発

 新工場を巡っては7月に別の下院議員2人も書簡を送っている。フォードは2月の発表文で26年の操業開始時に2500人を雇用すると強調したが、書簡は「そのうち数百人が中国から来るCATLの従業員となることを我々は承知している」と、フォードが喧伝(けんでん)する「雇用に貢献」の主張を否定。さらに2月の発表後、「CATLは強制労働の慣行と関係があるとされる新疆ウイグル自治区の企業の所有権を手放したようにみせかけながら、実のところ支配を維持する措置を取った」とし、米国でビジネスをする資格を疑問視した。

 全米自動車労組(UAW)が9月15日、史上初めて「ビッグ3(米自動車大手3社)」の工場でストライキに踏み切った背景にも、インフレ抑制法が盛り込んだEV関連の税額控除が関係する。UAWがスト決行の4日前に発行した機関誌には「米政府は何十億ドルもの血税をEV転換につぎ込みながら労働者保護はお構いなしだ」とするショーン・フェインUAW委員長の声明を載せた。

 批判を巻き起こしているインフレ抑制法のEVと関係する主な部分は次の通りだ。

 一つ目は、電池や充電器などクリーン技術の製造施設に投資する事業者向けの「高度エネルギープロジェクト税額控除」。投資額の一部を一旦、計算した納税額から差し引ける。内国歳入庁のウェブサイトによれば、歳出総額は100億ドル(約1兆4800億円)。フォードは新工場の建設に関し、この税額控除を受けるとみられる。

 二つ目は、自動車製造施設をEV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車など「クリーン自動車」用に転換する事業者向けの「国内製造転換助成」。米環境省が6月に発表し、歳出総額は20億ドルだ。

 三つ目は、クリーン自動車を購入する消費者向けの「クリーン自動車税額控除」だ。車体を組み立てた国や、車載電池の部品・原料の原産国などに要件を設け、それに合致した車種を購入した人は1台当たり最大7500ドル分の税負担が減る。米議会予算局の資料によれば、歳出総額は31年度までの10年間で125億ドルに上る。

 今年4月18日以降に購入する分の該当車種は米独メーカーの1…

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週刊エコノミスト

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