電力連系線ルール改革は経済効果が大きかった 杉本康太
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電力会社間を結ぶ送電線(連系線)への間接オークションの全面導入により、競争原理が働き、電力価格低下や取引量拡大に寄与した可能性がある。
最終消費者の電気料金低下に期待
前回(9月5日号)は、連系線の空き容量を先着順で無償配分する(予約を認める)先着優先ルールの実態について分析した。先着優先ルールの下では既存事業者が連系線の空き容量のほとんどを予約することができたため、新規参入者は不利であった。連系線を予約していた事業者は更に、最終的に使用する電気の量より多めに予約しておくことで、戦略的に前日市場で「市場分断」を起こした上で、発生するエリア間の市場価格の差を利用した取引で利益を得ることができた可能性があることも指摘した。
日本の先着優先ルールは2018年9月末をもって廃止され、代わりに「間接オークション」という新しい連系線利用ルールが導入された。間接オークションは、「連系線の容量」という限られた資源を効率的に配分する方法(混雑管理ともいう)の一つである。間接オークションの意味を理解するためには、先に「直接オークション」を考えるのがわかりやすい。これは電力量を取引する前日市場とは別に連系線の容量を売買する市場を設け、特定の連系線に一定量の電気を一定の期間流す権利を商品としてオークションにかけ、高い支払い意思額を入札した事業者に販売するというルールであり、かつてヨーロッパの多くの国際連系線で採用されていた。
間接オークションは直接オークションと同様に市場入札ベースの配分方法であるが、連系線の容量を独立した商品として取引しない点が異なる。代わりに、電力量を取引する前日市場で、安い売り意思額を入札した売り手と高い支払い意思額を入札した買い手が自動的に連系線の空き容量を獲得する。このように、電力量を売買する前日市場において、暗黙に(間接的に)連系線の空き容量を同時に配分するため、間接オークションと名付けられている。
既存事業者の優遇は廃止
間接オークションの導入後は、既存事業者は連系線の空き容量を前日市場より前に予約することができなくなった。連系線の容量を獲得するためには、既存事業者も含め全ての事業者が前日市場に入札しなければならなくなった。
筆者は間接オークションの導入により、どの程度の経済効果(発電費用の削減効果)があったのか分析した。日本の間接オークションには、貿易効果とボリューム効果があると考えられる。貿易効果とは、従来予約されていた分の連系線の容量が前日市場で配分可能になることで、前日市場のエリア間の市場価格の差が縮まる効果である。重要なので繰り返しになるが、前日市場で連系線の容量が足りずに市場分断が起きた場合、その連系線を境に分断された部分的な市場でそれぞれオークションが行われ、部分的な市場ごとに市場価格(エリアプライス)が決まるため、市場価格の差が発生する。前日市場での連系線を介した電気の流れは、あるエリアの発電機が生産した電気を、別のエリアの需要を満たすために輸出しているとみなすことができる。連系線の空き容量が増えると、輸出エリアの限界費用の低い発電機が追加的に発電し、連系線を通じて輸入エリアに送電することができるので、代わりに輸入エリアの限界費用の高い発電機は、発電電力量を減らす。その結果、両エリア全体で発電費用は削減され、エリア間の市場価格の差…
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週刊エコノミスト
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