国際・政治 洋上風力汚職
再エネ利権めぐる秋本議員の“馬耳東風” 北島純
有料記事
馬主組合という前例のないスキームが、国会質問の見返りとしての贈収賄事件の舞台となった。
洋上風力発電事業を巡る贈収賄事件で、東京地検特捜部は9月27日、元国土交通・外務政務官の秋本真利衆院議員(48)を受託収賄罪で起訴した。風力発電会社「日本風力開発」(東京都)の塚脇正幸前社長=贈賄罪で在宅起訴=から同社に有利になる国会質問をするよう請託を受け、見返りとして計約7286万円の賄賂を収受した疑いだ(他に詐欺罪でも起訴)。
この事件は「馬主組合」が贈収賄の舞台となった特異性を持つ。報道によると、秋本議員は趣味の競馬愛が強まり、2019年7月に個人の馬主として登録申請したが、JRA(日本中央競馬会)が要求する保有資産要件(7500万円)をクリアするための「見せ金」として、塚脇前社長から3000万円を同年3月に借り受けていたという。
その後、全額が返済された際、塚脇前社長に現金100万円及びワインが渡されている。100万円が金銭消費貸借契約上の利息なのか、貸借の謝礼なのかが争いになるが、東京地検特捜部は「無利息無担保による金融の利益」を秋本議員が受けたと判断。20年4月の競走馬1頭の持ち分20%(100万円相当)の供与と併せて「賄賂の授受」を認定した。
秋本議員はその後、塚脇前社長(第三者のA氏名義で出資)と知人B氏の3人で21年秋ごろに馬主組合「パープルパッチレーシング」を設立した(代表者名義はA氏)。馬主組合は民法上の「法人格なき組合」であるから、競走馬は組合財産すなわち組合員全員の「共有」となる。しかし、東京地検特捜部は、共有馬の実質的所有権は秋本氏にあったと判断した。
東京地検特捜部は、馬の選定・落札から調教・出走の調整までの管理を実際には秋本議員が一手に引き受け、自ら署名した馬の売買契約書が確認されたなどの事情を勘案。育成牧場費や厩舎(きゅうしゃ)費などの経費として塚脇前社長が払った1137万円(代理弁済)や、23年2~6月に組合口座に振り込まれた約1549万円は、組合全体に対する支出ではなく秋本議員個人への「賄賂の供与」と認定した。
前例のないスキーム
1頭の馬に複数の者が出資する「一口馬主」は、匿名投資組合の合法的スキームが利用される。一方、複数馬を共同所有する「馬主組合」は、本来なら「名義貸し」はご法度だ。馬の売買、賞金獲得、厩舎代などの経費支出が頻繁なうえ、高額な競走馬は減価償却による節税効果が高いこともあり、脱税を含めた不透明な金銭移動の温床になりうる。贈収賄の舞台装置として馬主組合を利用したとすれば、前例のないスキームだろう。
馬主組合における金銭授受がなぜ議員の職務権限と関連するのか。キーとなるのが国会質問だ。19年2月の衆議院予算委員会第7分科会で、秋本議員は唐突に「青森県について心配な事象を私自身が把握をした」と切り出し、「洋上風力が青森県でもしっかりと展開されるべきであろう」と述べ、「経済産業省は国土交通省だけでなく防衛省とも調整していく」という政府答弁を引き出している。
実は当時、風力発電に使われる巨大風車が航空自衛隊や在日米軍のレーダーに悪影響を及ぼす可能性があるとして、防衛省は安全保障上の観点から三沢基地などがある青森県を、再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電事業促進区域に含めることに懸念を表明していた。この青森県こそが、日本風力開発が入札を狙う地域だった。秋本議員が3000万円を借り受けたのはこの国会質問の直後である。
促進区域の選定第1ラウンドは結局、20年7月に秋田県と千葉県の3海域に決まったが、21年12月に発…
残り1139文字(全文2639文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める